2022年1月16日日曜日

『バイリンガル聖書』 の修復

『バイリンガル聖書』 の修復

 1ページの左右に英語と日本語の併記された、厚手の聖書の修復をしました。

処置前・背表紙
処置前・前小口
処置前・おもて見返し
処置前・本文紙のインデックス周辺
ひと連なりの表紙
 

この本は2005年に出版されたもので、そう古いものではありませんでしたが、ずいぶん熱心に読み込まれたらしく、山吹色のクロス装の表紙は、表‐背‐裏が繋がったまま本文から外れていました。本文には、あちこちに鉛筆やマーカーで線が引かれており、いくつもの書き込みもありました。前小口には、章ごとにインデックスラベルが貼られていましたが、それだけ読み込まれたせいか、ほとんどのインデックス周辺で本文紙が破れていました。その破れは、依頼主によってセロハンテープやメンディングテープで貼り留められていました。綴じは糸での機械綴じでしたが、本文の中央部で緩みがあったほかは、しっかりしていました。

 作業に入る前に、本文紙をどこまで補修するかを決めました。直筆の署名のあったおもて見返し遊び紙やタイトルページを含む数ページは、文字を落とさないように気をつけながら粘着テープを剥がして、和紙で補修をする。そして、基本的に、インデックス周辺の粘着テープには触らないことにしました。その粘着テープの貼り方によって用紙全体が引きつれて、しわや折れが生じていても、テープ自体は剥がさない、ということです。

タイトルページのメンディングテープの除去
本文紙の補修

補修の方針を決めた後は、まず、メンディングテープでノドがくっついていたおもて見返し遊び紙とタイトルページを、エタノールで剝がしました。それから、本文背の膠や古い背貼りを、メチルセルロースを塗って取り除いていきました。粘着テープを剝がすことを想定していた他のページについては、印刷の文字のことを考えると、剝がせる部分と剝がせない部分が混在することになりました。ページのカドの折れや破れの補修のほか、本文ブロックの終りの方15枚ほどに、折れまではいっていないページ全体の丸まり癖もあり、それらも補修しました。

そのあと、生麩糊で背固めをして中厚の楮和紙でまとめの背貼りをし、2本の栞紐と花ぎれを貼り戻しました。この本の判型は単行書と変わりませんが、普通の聖書より厚みがあることと、これから先も頻繫に読まれるかもしれないことを考えて、ヒンジの背貼りには、自分で裏打ちをした麻ダックを貼ることにしました。

ヒンジの背貼り
本文と表紙の接合(本文背側)

 外れていた表紙を3つのパートに切り離し、おもて表紙とうら表紙それぞれの表装材と見返し効き紙のノドを、スパチュラーで持ち上げました。本文背に貼ったヒンジの背貼りのハネを、両表紙の見返し効き紙の下に貼り込んで、本文と表紙を接合しました。

 そのあと、本文背に、厚手の和紙で作ったホローチューブを貼りました。これを貼ることによって、背表紙を傷めることなく、本を180度きれいに開くことができるようになります。その後、中性の洋紙で新規の背の芯紙を用意して、中性ボンドで貼りました。

新規の背表紙の表紙貼り
表紙のカドの補強と補修
おもて見返しノドの化粧貼り

 新しい背の表装材は、綿ブロードをアクリル絵の具で着色して、和紙で裏打ちしたものです。それで背の表紙貼りをしました。そのあと、少し擦り切れていた両表紙のカドを、アクリル絵の具で着色した楮和紙で補修しました。

 外して補修しておいたおもて見返し遊び紙を貼り戻し、持ち上げておいた効き紙も全て貼り戻したのち、両見返しのノドに、色を合わせて着色した和紙で化粧貼りをしました。

 最後に、元背の裏側の古い芯紙をこそげ落とし、周囲を切り揃えて、新規の背表紙に貼り戻しました。

処置後・背表紙
処置後・表紙全体

修復 : 安藤喜久代

記録の公開をご承諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。