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2026年1月26日月曜日

経済学研究資料の修復

「Statistical Survey of the County Cork」という研究書の修復を行った。

支持体の麻ひもが4本入っている半革装の綴付け製本だが、おもて・裏表紙が本体からはずれており、切断された支持体の影響で両端の折丁が外れる恐れがあった。新たな支持体を本体に固定し、ギャルドブランシュ(2枚一折の保護用紙)を綴付けた。背表紙は天地の一部が欠損していた。表装材は革のみを新しいものに替える方向でお預かりしたが、最終的に総革装くるみ製本に形を変えた。

 


修復前 表紙 

修復前 背表紙

新たな支持体を付け、ギャルドブランシュを固定

 

まずはページのクリーニング、図版の破れ部分の修復を行った。図版が7折に折りたたんであったが、その厚みが前後の紙を圧迫し表紙の閉じも悪くなるので、5折に折り直した。ページ破れ1か所と図版の破れを和紙で修理した。

 


図版旧修理テープ除去     

図版破れと旧テープ跡の修理

 

背表紙を外したところ、背の補強のための寒冷紗が貼られておらず、花ぎれを付けた背に直接革が貼り付けられていた。

107折という折丁数にもかかわらず、束(つか・本体の厚み)に対して背幅が極端に狭く、綴付け製本にふさわしい丸みがなかった。ギャルドブランシュ2折を加え、背固め、丸み出しを試みたが、綴付け製本にふさわしい厚み(丸み)は得られなかった。本来は元の製本形態の綴付け製本を維持すべきかもしれないが、以上の理由と、さらに研究資料として閲覧回数が多いと考えられたので、開きやすいくるみ製本が良いと判断し、総山羊革装のくるみ製本に改装した。

表紙内側の埋め立て

 

タイトルはご依頼主に確認した上で通称である“CORK SURVEY”とし、初版年1810も箔押しした。中性紙による保護ジャケット、(本体の重みを支える)土台付保存箱を作成した。

 


作業終了後      


見返し

 

 お預かりした資料の特徴を熟考することに時間をとられ、なかなか修復の方向が定まりませんでしたが、くるみ製本にすることで全体の姿形も含め、調和がとれたと思います。

記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします。

 

修復・箔押し: 平まどか 

2025年11月1日土曜日

「内田嘉吉文庫修復報告2025」展


工房メンバーが担当した本が展示されています。どうぞご覧ください。

特別研究室企画展示 

100年後も手に取れる本に ~内田嘉吉文庫修復報告2025~

2025年10月21日(火)-12月28日(日)

資料を「活用しながら保存する」が特徴である特別研究室では2024年度、内田嘉吉文庫をはじめとする所蔵資料12点の修復を行いました。西洋人が日本について記し、挿絵も多い17世紀から19世紀に出版された本の改装や綴じ直し、日本統治期の台湾で発行され、合冊保存されていた雑誌の分冊化など書籍修復家による創意工夫を凝らした修復過程の記録を公開します。書籍修復家・近藤理恵氏が講師を務める東洋美術学校保存修復科の学生による修復本もあわせて展示します。

4階 特別研究室
日比谷図書文化館

東京都千代田区日比谷公園1-4 

https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20251021-100_2025_1/



関連講座も開かれます。

内田嘉吉文庫の一冊 第3回

内田嘉吉文庫で一番古い本『世界の島々』について

2025年12月6日(土)14:00−15:30

講師:雪嶋宏一(早稲田大学名誉教授)

内田嘉吉文庫の中で一番古い本は、ヴェネツィアで16世紀に刊行されたベネデット・ボルドン『世界の島々』です。この本ではそれぞれの島の図に風向が示されていることから、航海図として描かれたものです。また、「日本」を木版画によって単独で図示した最初の本として以前から知られています。しかし、内田文庫本には出版年が印刷されていないため、出版の詳細はわかりませんでした。今回この本を調査して、出版事情についていくらかわかってきましたので、著者ボルドンおよび本書の成立事情、そして大航海時代における本書の意義についてお話しします。

お申し込み方法:イベント予約サイト「Peatix」 https://peatix.com/event/4572462/view



2025年6月5日木曜日

美術史の本の修復

1911年パリで出版された美術史の本『INGRES SA VIE ET SON OEUVRE』

半革角革背バンド装で大きくて重い本。綴じつけ製本で背はホローバック。
表表紙が本体から外れている。背表紙革の傷みも進行している。

 

従来の製本構造を維持するために、外れた表紙をジョイント・タケティング法で本体に再接続した。丈夫な麻糸と和紙を使って綴じつけ製本の構造を復元した。


見返しマーブル紙のノドが化学的接着剤で接着されていたので、その部分を除去して別のマーブル紙で補った。

背表紙内側に残っていた元のクータを修理して再利用した。機能しなくなっていたホローバックが復元された。

 

表紙革の接合部を修復用の染色和紙で繋いで補強した。




修復:岡本幸治


2025年5月18日日曜日

新約聖書の修復

新約聖書の修復   

 新約聖書改装のご依頼があった。ご依頼主が、祖父君が創立した学校へ入学された際に贈られた聖書ということで、最初のページに献辞があり、その献辞を残してほしいというのがご依頼主の一番のご要望だった。本文ページの綴じはほぼ問題なかったが、表紙の革がはがれ、背革が一部欠損していたので、別の山羊革で改装することにした。

おもて表紙のはがれ

背表紙の状態
 

表紙と見返し、背貼り紙、花切れを外した。少しゆるみのあった、献辞のある最初の折丁と最後の折丁に新たなギャルドブランシュ(2枚一折の保護白紙)を加え、本体に糸綴じした。布テープの支持体を3本使用。

ギャルドブランシュの追加 綴じ

背を軽めに丸味出し、寒冷紗貼り、傷んでいた元のしおりひもを新しいものに交換して、花ぎれを付けた後、クータ(チューブ状の紙)を背につけた。

花ぎれとクータ

表紙の下ごしらえとして厚紙でおもて・裏表紙の芯材をつないだ(カルカス)後に、表装材の革を準備。3色の候補から、ご依頼主にワインレッドの山羊革を選んでいただいた。

革漉き作業後、表紙貼りを行い、折り返した革との段差埋め立て(コンブラージュ)をして、見返しを貼り、本体作業を終了。

 

カルカス
             
                                                            内側の埋め立て作業(途中)

背タイトルを金箔押し。中性紙の保護ジャケットを作成した。

作業終了
献辞のページ

新たな表紙を得た聖書をお返しし、ご依頼主からは祖父君の懐かしい文字に再び出会えたと喜んでいただけました。

記録の公開にご快諾いただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします。


修復、タイトル箔押し: 平まどか


2024年12月9日月曜日

半革装法律書の修復


 「改正日本刑法論」という明治期の書籍の修復を行った。表装材の背表紙が背からはずれ、裏表紙とかろうじてつながっている状態だった。新しい革を土台として、元の背表紙を貼り付けることにした。また布装部分も傷みが激しかったので、新たなクロスに替えることにした。

修復前の表装材 背表紙の状態
 

 本体の綴じは比較的しっかりとしていたが、最初の折丁にゆるみがみられた。前見返し、別丁トビラを外し、本体との間で糸綴じし、トビラを貼り戻した。寒冷紗を貼り、クータで背の補強をした。間紙は和紙に取り換えた。

 

折丁のゆるみ

間紙の取り替え
 

傷んだ布をすべて除去し、おもて表紙天の欠損部分を補った後、新しい製本クロスを貼った。表紙内側は見返しきき紙を10ミリほど持ち上げ、クロスの折り返し部分を貼った後、紙を戻した。   

おもて表紙天の欠損部分

欠損部分の補修
 

表紙芯材の内側についていた3本の支持体を外し、芯材外側のノドに貼り付けた。

背表紙の土台となる新しい革を、裏表紙側のノド10ミリくらいに貼り付け持ち上げておいた革を戻し、背表紙までを新たな革に貼り付けた。次におもて表紙側ノドに新たな革の端を貼り付け、裏側と同様に持ち上げておいた革を貼り戻した。

支持体の元の貼り付け位置

おもて表紙ノド つなぎ前

元背表紙を土台革に貼り付け


 表紙内側の作業に戻り、本体の背と背表紙を貼り付けた後、おもて・裏とも本体から続いている和紙を表紙ノドに貼り付け、その上に新たな製本クロスを貼り付けて、見返しきき紙のノド部分を貼り戻した。おもて・裏とも見返し遊び紙を貼り付けた。

革の補強として、HPC(繊維素溶剤)を塗布。

中性紙による保護ジャケット、(本体の重みを支える)土台付保存箱、書見台を作成。

 

本体からの和紙を表紙側に貼り付け前

ノドに新しいクロス貼り付け

作業終了後

 

 研究に必要な、かつ内容的にも重要な本ということで、閲覧頻度の高さに対応できることを念頭に作業を進めました。

記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします。

 

修復:平まどか


2024年10月28日月曜日

『不思議の国のアリス』美しい製本

修復前の状態

著者:LEWIS CARROLL
資料:ALICE’S ADVENTURES IN WONDERLAND.
JOHN TENNIEL挿画 1904年 ロンドン、ニューヨーク刊行

製本仕様:くるみ製本、総革背バンド装、三方金。見返しマーブル紙。表紙革の折り返しにロールによる金箔押し装飾。表紙の裏にイギリス最古の書店HATCHARDSのサイン有り。個人蔵

修復前の状態
小型の美しい青色の総革製本の表表紙が見返しと共に本体から分離していた。全体的に擦り傷が多かった。現存の装飾をそのまま残してほしいとの依頼があった。

作業内容


本体から背表紙革を部分的に剥離して丈夫な白い和紙と革の色に染色した和紙を挿入した。白い和紙を見返し側、染色和紙を表紙側に利用して分離した表表紙を本体に接続した。傷んだ表紙角や背バンドを染色和紙で修理した。見返しノドを薄手の和紙で補強した。表紙ジョイントの外側に染色和紙を貼って補強した。

修復後

 

修復担当:岡本幸治(2024年9月)


2024年9月29日日曜日

たれつき表紙の聖書の修復

たれつき表紙の聖書修復を行った。本体の綴じはしっかりしていたが、表装材の「たれ」になっている箇所(四つの角、天地)に傷みがあり、新しい表装材に替えることになった。

 

修復前の表装材 背の天

修復前の表装材 角

ページ間のクリーニング中に、奥付ページのノドの破れを発見。表紙から支持体の布テープをはがし、表紙と本体を分離させたのち、奥付ページの修理を行った。

 

表紙をはがす

最終頁ノドの修理 

見返しの汚れが目立ったので新しい見返しに替え、保護のためのギャルドブランシュも新たに付け加えることにした。綴じ全体はしっかりしているものの、前と後ろのいくつかの折丁のノドに若干のゆるみがあり、ギャルドとそれら折丁の間を綴じてもゆるみが解消されないと判断、先に背固めをして寒冷紗を貼った上から、前後の折丁とギャルドの間を糸綴じ、再び膠で背固めをした。


ギャルドブランシュの本体への綴じ

 

新たな2本のしおりひもをつけ、花切れ、補強のためのクータ(チューブ状にした紙)を貼って、中身の作業を終えた。

表紙芯材の切り出し、革の切り出し、革漉きを経て、表紙貼りを行った。本体と背表紙を付け、内側の埋め立て(コンブラージュ)まで行い、箔押し作業に移行した。画像6 表紙貼り 内側の埋め立て(コンブラージュ)まで行い、箔押し作業に移行した。

表紙貼り 内側

元の見返し

新たな見返し
 

 箔押し作業から本が戻り、見返しきき紙を糊付けし、作業終了。

新たな背表紙
 
空押し線装飾

背表紙


たれつき表紙への改装は普段あまり機会がなく、事前にスタディを行ったのち、ご依頼の聖書改装に臨みました。貴重な経験となりました。

記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします


修復、改装: 平まどか  タイトル押し、空押し装飾: 近藤理恵