2023年8月28日月曜日

「古い本は、こうしてよみがえる 」展示

千代田図書館の展示のお知らせです。お近くにお越しの折にはどうぞご覧ください。



古い本は、こうしてよみがえる
千代田図書館所蔵「内務省委託本」修復

2023年8月28日(月)~10月20日(金)

千代田図書館が所蔵している特別なコレクション「内務省委託本」は、戦前期に内務省が出版物の検閲に用いていた原本です。そこには、当時の検閲の痕跡が残されており、出版史において貴重な資料となっています。

千代田図書館では、劣化が認められる「内務省委託本」を順次修復しています。今回は、修復が完了したこれら資料を展示し、古い本がどのように修復されているのかを紹介します。
また、修復を担当して頂いている造本作家・藤井敬子氏のデザイン製本作品も併せて展示します。(千代田図書館HPより)

千代田図書館9階 地域連携コーナー
東京都千代田区九段南1-2-1 千代田区役所9階・10階
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20230828-post_648/




2023年8月5日土曜日

日比谷でルリユール「海の本」展

東京製本倶楽部25周年記念 日比谷でルリユール「海の本」展に、工房メンバーも出品しています。

近藤理恵 『gobe-lune』

  藤井敬子 『MAAILMA PARIM ASI』

私たちの展示のあるエレベーターホールから、本の背表紙をモチーフにしたデコレーションのある階段を4階に上がると特別研究室の展示を観られます。ぜひご覧ください。


特別研究室企画展示「内田嘉吉文庫に見る 港の時代―16~19世紀における歴史と役割―」

2023年7月1日(土)-8月20日(日)

明治・大正期に逓信省で日本の海事行政に関する法律の整備などに尽力し、臨時横浜港設備委員、臨時神戸港設備委員も務めた内田嘉吉の旧蔵書から港に関連する資料をピックアップして展示します。16世紀から19世紀、それぞれの港はどのように成立し、どのような役割を果たしていたのかを紹介します。

日比谷図書文化館 4階特別研究室
東京都千代田区日比谷公園1-4
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/

2023年5月6日土曜日

『ヨヘイ画集』 の修復

『ヨヘイ画集』 の修復

 明治43年(1910年)に東京で出版された、スケッチ帳のような画集を修復しました。

処置前・おもて表紙と背表紙

 本はA5判より少し大きめの大きさで、おもて表紙・背表紙・うら表紙が一体となったくるみ表紙でした。表紙の状態は、背表紙の天の端が少しめくれている以外は、茶色の変色や汚れが少しあるくらいで良好でした。両見返しは、おもて・うらで異なる絵入りの紙で、どちらも経年劣化の変色以外は良好でした。支持体を用いた綴じもしっかりしていて、本文紙の状態もほぼ良好でした。ただ、いくつかの折丁が前小口側にずれて落ち込み、本の背が平らでなく変形してしまっていました。それに伴い、前小口も一部が出っ張っていました。また、本の背の周辺が、うら表紙側からおもて表紙側へ向かって倒れるように丸まっていました。この本にはパラフィン紙で包まれたジャケットがついていました。ジャケットは、背表紙の天地に大きな欠損部があり、特に天の側では、書き文字風のタイトルの一部(「ヨ」と「ヘ」)が欠けていました。表紙と袖の間の折り目も切れかかっており、ジャケット全体が劣化して脆くなっていました。

処置前・おもて見返し
処置前・本文背の変形(天)
処置前・ジャケット全容(表側)

依頼主の方のご要望は、① 本の背の変形の修正 ② あまり目立たない感じでジャケットの傷みの補修をする ③ ジャケットの背タイトルの欠字の再生 の3点でした。

折丁が落ち込んで変形した本文背の修正

 まず、本の背の変形を修正するために、本文から一体表紙を外しました。見返し効き紙のノドを剝がして、表紙うらに貼られていた綴じの支持体(細い麻紐)を剝がし、本文背から表紙を外しました。それから、本文背の膠を落として生麩糊で背固めをし直し、落ち込んだ折丁の中央にアルミ板をはさんで背を打ち付け、折丁の背の位置の修正をしました。しかし、それだけでは背を平らに戻すのは難しく、丸み出しをするときのように、本文背を意識的にずらしながらハンマーで叩いたりすることも併用してみました。これらを何度か繰り返して、本文背が大体平らに戻ったところで、背の周辺の丸まりの逆側にガラス棒をあてがって上から重しをして何日か寝かせ、丸まり癖を取りました。かなり長い間、そのような形で置いておかれた本のようで、「こっちに来て、こっちに来て」と思いながらの修正は、まるで頑固な猫背の矯正のようだと思ったことでした。

本文背の周辺の歪みを修正する

 本文背が大体平らに戻り、背の周辺の丸まりも大体解消されたところで、和紙でまとめの背貼りとヒンジの背貼りをしました。本文紙の一部にあった小さな欠損と破れは、依頼主の方との相談の結果、破れのみを補修して、欠損そのものは補填しないことにしました。それから、本文背に厚手の和紙で作ったホローチューブを貼りました。

ヒンジの背貼り

 背と平が一体の表紙は、背の部分の天のめくれを着色和紙で補修し、本文と接合しました。

背表紙の天の補修
うら見返し効き紙ノドの補修

 両見返し効き紙のノド周りを整え、糊を引いて、表紙うらノドに貼り込みました。この本の見返しは、元々ノドだけの接着になっていたので、同じように貼り戻しました。

 次は、ジャケットの補修です。

ジャケット背の欠損した文字の復元
ジャケットの背の天の欠損部の補修
ジャケットのうら表紙側の袖の補修

 まず、天の欠損部にある欠字の再生のために、あらかじめジャケットの背や本の背表紙の書名部分をコピーしておきました。ジャケットの背のコピーの欠字部分に手書きで書き入れ、具合を見て、決定したらペンでなぞってくっきりさせておきました。

 劣化して欠落しそうな背の裏側全体に、中厚の着色和紙を貼って補強しました。それから、平表紙の天地の破れや脆くなっている部分に、和紙で裏側片面もしくは裏表両面から補修しました。背の天地の欠損は、まず中央部の小さな欠損と地の部分を着色和紙で、表側から補填しました。

天は文字の端をほんの少し残した状態で欠けていたので、復元した文字とうまく繋がるようにしたいと思いました。ライトテーブルなどがあれば、欠損部の形に添うように補修紙を切り出せますが、持っていないので、少し工夫をしました。透明アクリルの仕切り棚を用意し、その下に小さな灯りを置いてみました。仕切り棚の上に欠字を書き入れたコピーを乗せ、上に透明アセテート・フィルムを敷いて補修紙を乗せて、輪郭線を水筆でなぞって喰い裂きにしました。そのあと、アクリル絵の具を使って、手書きで欠字を書き入れました。その後、天の欠損部に貼り込みました。

 背も含めて表紙部分の補修が終わってから、ジャケットを本に着せて、具合を見ながら袖の部分の補修をし、最後に、袖の折り山全体を薄い和紙でカバーしました。

処置後・変形を矯正した背
処置後・表紙全体

 背の補修に使用した着色和紙の色味が少し濃かったのではないかと、心配しましたが、依頼主の方に良い感じの古色と言っていただき、安堵しました。

記録の公開をご快諾くださった依頼主の方に感謝いたします。


修復・記録 : 安藤喜久代


2023年4月20日木曜日

修復報告展と講座

日比谷図書文化館でメンバーが携わった修復の展示が始まっています。
新緑の美しい日比谷公園にある図書館、お時間がございましたらぜひご覧ください。


修復前の状態、綴じ割れ

修復後の3冊(担当:近藤)


特別研究室企画展示 
100年後も手に取れる本に 内田嘉吉文庫修復報告2023

2023年4月18日(火)~6月18日(日)

平日:10:00−20:00、土曜日 10:00−18:00、日・祝日 10:00−16:00

2022年度、日比谷図書文化館特別研究室は内田嘉吉文庫をはじめとする17点の所蔵資料の修復を行いました。昨年開業150周年を迎えた日本鉄道史関連本や美しい図版が収められた大型の洋書、関東大震災の記録など様々な種類の資料が安心して手に取れるよう修復されました。書籍修復家による創意工夫を凝らした修復過程の記録を公開し、修復された資料を展示します。(図書館HPより)

4階 特別研究室

日比谷図書文化館
東京都千代田区日比谷公園1-4


企画展示関連講座 資料を活用するための修復―合冊製本から分冊製本へ―

2023年6月17日(土)14:00~15:30

講師:近藤 理恵(製本・書籍修復家)

雑誌や書籍を一冊にまとめて資料を保存する「合冊製本」。特別研究室所蔵資料の中にもこの方法で保存されてきた資料が多数あります。しかし、合冊製本の資料は開きにくい、かなりの重量があるなど、必ずしも扱いやすいものではありませんでした。そこで、特別研究室では2020年度より合冊製本を「分冊製本」に戻す修復を試みています。本講座では特別研究室所蔵資料の分冊製本による修復を手がけた講師が、より扱いやすく、活用しやすくするための修復の作業過程とその意義についてお話しします。(図書館HPより)

会場:スタジオプラス(4階 小ホール)
参加費:1000円
申し込みフォームより事前申込、定員60名

申込詳細 

日比谷図書文化館
東京都千代田区日比谷公園1-4
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/



2023年4月13日木曜日

聖書の修復

聖書の修復

 聖書の修復をお引き受けした。破損状況としては、最初と最後のページが本体から離れ、表紙の側についた状態であったことと、綴じは概ね良好だったが、若干ゆるみが見られることがあった。これからも永きにわたり読み続けられるよう、必要と思うことはしてほしいというご依頼主のご希望だったので、解体して再製本をすることにした。 

 

修復前の表装材の様子

本文ページのしわ折れ

 付箋が20か所以上にわたり貼られていた。粘着部分が将来、ページにシミをつくる恐れがあることをご説明し、了解を得て付箋を取り外し、粘着部分に和紙を貼り、元のページに戻すことにした。 

付箋のページ

 本体を折丁ごとに解体後、表装材についているページを外し、しわ折れを直してから、最初と最後の折丁に組み立て直した。他の折丁もノドの傷みがあるものを修復した。
支持体を使った本かがりの後、背固めを行った。表紙と同じ山羊革で作った花切れを貼り付け、絹糸で本体に綴付けた。クータ(背の補強のための、チューブ状にした紙)を背に貼り付け、本体作業を完了。

 

花ぎれ綴付け

 厚手の紙で表紙芯材を作り、革の切り出しをした。革漉き後、芯材に表紙貼り。
背に「聖書」と金箔押しをした後、本体に表紙を取り付けた(背、見返し貼り)。
中性紙による保護ジャケットを作成した。

 

作業終了後

表紙

 

                        ******

ご依頼主からは、「別物のように美しく仕上げていただいた」というお言葉をいただきました。深い想いが感じられる聖書の修復にかかわることができ、気持ちよく仕事ができましたことを、ご依頼主様に心より感謝いたします。

 

修復、製本、タイトル押し: 平まどか 


2023年1月14日土曜日

『村の月夜』 の修復

『村の月夜』 の修復

処置前・表表紙と背

昭和11年(1936年)に東京で出版された児童書を修復しました。

古い本でしたが、紙製くるみ製本の表紙は鮮やかな色合いが残っていました。おもて表紙もうら表紙も小さな擦れ傷がいくつかあったほかは、古さの割にはきれいでした。ただ、おもて表紙と背表紙は表装材が溝の部分で切れていて、寒冷紗でかろうじて繋がっているような状態でした。うら表紙と背表紙も半分ほど切れていました。また背表紙には、おもて表紙寄りに芯紙の欠けた部分があり、本文背の寒冷紗が覗いていました。綴じは糸綴じでしっかりしていて、緩みも切断箇所もありませんでした。本文紙は厚手でしっかりしていましたが、何箇所か小さな折れや破れが見受けられました。また、いつの時点で誰が挟んだのか、何かの種のような茶色の粒々がページの奥に挟まっていました。全体的に何かの染みや汚れも多くありましたが、これらは読むには問題ありませんでした。それなので、修復の主眼は、背表紙の欠けた部分を補填し、新規の表装材で両平表紙を繋いで、本文と接合することとしました。

処置前・ノドに挟まっていた異物

まず、本文から両平表紙と背表紙を外しました。

本文のほうは、背にメチルセルロースを塗って、古い背貼りと膠を落としました。この時、貼り花ぎれも剝がして膠を落としておきました。その後、本文紙の折れや破れを和紙で補修しました。次に、和紙でまとめの背貼りをし、花ぎれを貼り戻しました。それから、中厚の和紙でヒンジの背貼りをし、厚手の和紙で作ったホローチューブを貼りました。これは、本の開きをよくするための処置です。

ヒンジの背貼り

 外した両表紙は、表側(表装材)のノドと裏側(見返し効き紙)のノドを、スパチュラーで剝がして持ち上げました。両見返しとも、効き紙と遊び紙は繋がっていましたが、作業中に遊び紙の小口を何度も折りそうになったので、遊び紙をノドから裂いて別置しました。

 表紙のノドを持ち上げるのと並行して、新規の背の表装用の厚手和紙と見返しノドの化粧貼り用の和紙をアクリル絵の具で着色しました。

 当初、背表紙は、芯紙の欠けた部分を補ってから、新規の背の表装材で両表紙と繋ぐつもりでした。しかし、元の芯紙の幅が本文背より狭いことに気づき、依頼主の方と相談のうえで、新しい芯紙を用意することにしました。本文背がしっかりカバーでき、しかも背幅だけが突出して不格好にならないように、新しい芯紙の背幅は慎重に決めました。やり方が変わったので、背表紙は、最後に貼り戻せるように、裏側の古い芯紙をできる限り剝がし取って薄く平らにし、周囲もきれいに切り整えました。

 新規の背の表紙張りをしました。これは、背の芯紙に新しい表装材を貼るというだけでなく、この表装材で表紙の三つのパートを繋げる役も果たします。また、この表紙張りによって、この後の作業でのチリの出具合いが決まります。それなので、両表紙の効き紙と本文の位置合わせには気を使いました。新規の背の芯紙は本文背に仮留めしておき、まず、新規の表装材を、おもて表紙のノドの表装材を持ち上げた部分の下に貼り込みました。それから、背の芯紙に貼り付け、うら表紙のノドの表装材の下に貼り込んでいきました。

新規の背の表紙貼り
新規の背の表紙貼り完了(表紙おもて)
本文と表紙の接合
表紙表装材のノドの裏を薄く整える

 おもて‐背‐うらときれいに繋がった表紙と本文を接合しました。

 両平表紙のノドの、持ち上げてあった表装材の裏側を薄く整えてから、新規の表装材の上に貼り戻しました。ヒンジの背貼りのハネを表紙うら(見返し効き紙)ノドの持ち上げた部分に貼り込みました。これによって、表紙の開閉の際のヒンジも強化することができます。外しておいた両見返し遊び紙のノドに和紙の足を貼って効き紙の下に貼り戻し、効き紙ノドの持ち上げた部分も貼り戻しました。最後に、両見返しノドに化粧貼りをしました。

外した見返し遊び紙の貼り戻し
元背の貼り戻し

 表紙のカドの擦り切れた部分を、着色した和紙で補修し、元背を貼り戻して一連の作業を終了しました。

処置後・表紙全体

 背の芯紙を新しくしたことで、背だけがきりりとなり、他の部分の古さと馴染まないのではないかと心配しましたが、さほどではなく、依頼主の方にも喜んでいただきました。納品時に伺ったところ、この作者(貴司悦子氏)は若くして亡くなっており、この本は、作者の生前、ほとんど自費出版のような形で出された二冊の著作のうちの一冊とのことでした。部数も多くはなかったのでしょうし、この本が長生きできるお手伝いができたのなら、大変うれしく思います。

 記録の公開をご快諾くださった依頼主の方に、感謝いたします。

修復・記録 : 安藤喜久代