2024年2月18日日曜日

カレワラの修復

『カレワラ』の修復

フィンランドの叙事詩「カレワラ」の修復を行った。「フィンランド國出版費補助豪華版」限定版150部という大型の半革装本で、猪熊弦一郎の挿画が入っている。ご依頼主のご親戚が翻訳を手がけたとのこと。

背表紙はごく一部を残し欠損、背貼り紙が残っているのみで、背表紙とおもて表紙をつなぐノドは分離、背表紙と裏表紙にかけてテープが貼りつけてあった。前見返のノドにゆるみが見られた。

献呈署名のある前見返し遊び紙は残し、おもて・裏とも新たな見返しに替えた。また、表装材のバクラム(製本クロスの一種)は残し、革は新しいものに替えた。

 


修復前の表装材の様子


背の状態

 おもて見返しのきき紙の一部と献呈署名のある遊び紙を保存。おもて・裏見返しのその他の部分を本体から外した。新たな見返し(2枚一折)を本体に糸で綴じ付け。膠で背固めし、新たな寒冷紗を貼った。表装材と同じ革で花ぎれ付け。

カルカス(おもて・裏表紙をつなぐための厚紙)を作成し、元の表紙芯材と貼りつけ。新たな革を切り出し、革漉き。バクラムの部分を残し、背と平(ひら)のノド側部分、角革の表紙貼り。新たな見返しのきき紙を表紙内側に貼りつけ、本体作業完了。

              

 おもて見返しのきき紙と遊び紙

カルカス 

  革の代替作業

 

一旦、箔押し作業に出し、戻ってきた本のスリップケースを作成した。元の箱から外題と背タイトルの印刷部分を取り外し、補強として裏打ちした。本体の重みを支える土台を作成、箱の内側下方に貼りつけた。ケースの組み立て後、出し入れ口に革を貼り、強制紙(耐久性のある厚手和紙)で表装、元の外題と背タイトルを貼りつけた。

 


箔押し装飾 

元スリップケース 


スリップケース 


 傷んだ革を新しいものに替えたことで、表紙のバクラムもあまり古さを感じない印象になりました。将来はフィンランド大使館への寄贈の可能性もあるということ、フィンランドのことなど、興味深いお話の数々も伺いました。記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします

 

修復、改装:平まどか  タイトル押し、金箔装飾:近藤理恵


2024年2月14日水曜日

日比谷でルリユール 装飾

工房メンバーも出品する展覧会です!



東京製本倶楽部25周年記念 日比谷でルリユール 装飾
2024年2月20日(火)-4月14日(日) 

(3月18日月曜休館、月-金10:00−22:00、土-19:00まで、日祝日-17:00まで)

4階特別研究室企画「内田嘉吉文庫に見る民族衣装の世界 -19世紀・服飾による異文化との出会い-」に連動して、ファッション、インテリアからデザイン全般まで「装飾」をテーマにした会員によるルリユール作品を展示します。16世紀の古版本から現代のルリユールまで、多様な書物の装飾と製本スタイルをご覧ください。

日比谷図書文化館 3階エレベーターホール

https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20240220-25_6/



2024年2月8日木曜日


特別研究室企画展示 

内田嘉吉文庫に見る 民族衣装の世界 -19世紀・服飾による異文化との出会い-

2024年2月1日(木)~3月31日(日)

平日 10:00-20:00 土 10:00-18:00 日・祝 10:00-16:00

15世紀から始まった大航海時代以降、ヨーロッパの人々はアジア、アフリカ、中東を探検し、風土、慣習、宗教など様々な異文化と出会いました。それらを記録した内田嘉吉文庫の所蔵資料には各地の民族衣装の図版も収められています。本企画では主に19世紀に出版された本に掲載されたヨーロッパの人々が描いた民族衣装、また、幕末期、開国により外国との往来が盛んになったことで描かれた海外の民族衣装の資料を紹介します。

4階 特別研究室

以前にメンバーが修復製本をしたJavaの本も展示されています。
https://atelierleaves.blogspot.com/2020/10/


関連講座:日比谷カレッジ
東京製本倶楽部25周年
内田嘉吉文庫の一冊:装訂(そうてい)に秘められた書物をめぐる物語

講師 雪嶋宏一(早稲田大学名誉教授)

2024年3月9日(土曜日)
14:00~15:30(13:30より開場)

内田嘉吉文庫に収蔵された19世紀のパネル装訂が施された一冊であるエルフィンストーン『カーブル王国誌(An account of the kingdom Caubul)』(1815年刊)。これは著者、出版に貢献した人物、それを受け継いだ人たち、そして内田嘉吉が入手するまでの経緯がわかる珍しい書物であり、この内田本は世界的にも大変貴重な存在です。本書の出版の経緯と成立、そして来歴に秘められた物語を解き明かします。

会場:4階 スタジオプラス(小ホール)
60名(事前申込順、定員に達し次第締切)
参加費 1,000円

お申し込みフォーム

日比谷図書文化館

東京都千代田区日比谷公園1-4
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/hibiya/


2023年8月28日月曜日

「古い本は、こうしてよみがえる 」展示

千代田図書館の展示のお知らせです。お近くにお越しの折にはどうぞご覧ください。



古い本は、こうしてよみがえる
千代田図書館所蔵「内務省委託本」修復

2023年8月28日(月)~10月20日(金)

千代田図書館が所蔵している特別なコレクション「内務省委託本」は、戦前期に内務省が出版物の検閲に用いていた原本です。そこには、当時の検閲の痕跡が残されており、出版史において貴重な資料となっています。

千代田図書館では、劣化が認められる「内務省委託本」を順次修復しています。今回は、修復が完了したこれら資料を展示し、古い本がどのように修復されているのかを紹介します。
また、修復を担当して頂いている造本作家・藤井敬子氏のデザイン製本作品も併せて展示します。(千代田図書館HPより)

千代田図書館9階 地域連携コーナー
東京都千代田区九段南1-2-1 千代田区役所9階・10階
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20230828-post_648/




2023年8月5日土曜日

日比谷でルリユール「海の本」展

東京製本倶楽部25周年記念 日比谷でルリユール「海の本」展に、工房メンバーも出品しています。

近藤理恵 『gobe-lune』

  藤井敬子 『MAAILMA PARIM ASI』

私たちの展示のあるエレベーターホールから、本の背表紙をモチーフにしたデコレーションのある階段を4階に上がると特別研究室の展示を観られます。ぜひご覧ください。


特別研究室企画展示「内田嘉吉文庫に見る 港の時代―16~19世紀における歴史と役割―」

2023年7月1日(土)-8月20日(日)

明治・大正期に逓信省で日本の海事行政に関する法律の整備などに尽力し、臨時横浜港設備委員、臨時神戸港設備委員も務めた内田嘉吉の旧蔵書から港に関連する資料をピックアップして展示します。16世紀から19世紀、それぞれの港はどのように成立し、どのような役割を果たしていたのかを紹介します。

日比谷図書文化館 4階特別研究室
東京都千代田区日比谷公園1-4
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/

2023年5月6日土曜日

『ヨヘイ画集』 の修復

『ヨヘイ画集』 の修復

 明治43年(1910年)に東京で出版された、スケッチ帳のような画集を修復しました。

処置前・おもて表紙と背表紙

 本はA5判より少し大きめの大きさで、おもて表紙・背表紙・うら表紙が一体となったくるみ表紙でした。表紙の状態は、背表紙の天の端が少しめくれている以外は、茶色の変色や汚れが少しあるくらいで良好でした。両見返しは、おもて・うらで異なる絵入りの紙で、どちらも経年劣化の変色以外は良好でした。支持体を用いた綴じもしっかりしていて、本文紙の状態もほぼ良好でした。ただ、いくつかの折丁が前小口側にずれて落ち込み、本の背が平らでなく変形してしまっていました。それに伴い、前小口も一部が出っ張っていました。また、本の背の周辺が、うら表紙側からおもて表紙側へ向かって倒れるように丸まっていました。この本にはパラフィン紙で包まれたジャケットがついていました。ジャケットは、背表紙の天地に大きな欠損部があり、特に天の側では、書き文字風のタイトルの一部(「ヨ」と「ヘ」)が欠けていました。表紙と袖の間の折り目も切れかかっており、ジャケット全体が劣化して脆くなっていました。

処置前・おもて見返し
処置前・本文背の変形(天)
処置前・ジャケット全容(表側)

依頼主の方のご要望は、① 本の背の変形の修正 ② あまり目立たない感じでジャケットの傷みの補修をする ③ ジャケットの背タイトルの欠字の再生 の3点でした。

折丁が落ち込んで変形した本文背の修正

 まず、本の背の変形を修正するために、本文から一体表紙を外しました。見返し効き紙のノドを剝がして、表紙うらに貼られていた綴じの支持体(細い麻紐)を剝がし、本文背から表紙を外しました。それから、本文背の膠を落として生麩糊で背固めをし直し、落ち込んだ折丁の中央にアルミ板をはさんで背を打ち付け、折丁の背の位置の修正をしました。しかし、それだけでは背を平らに戻すのは難しく、丸み出しをするときのように、本文背を意識的にずらしながらハンマーで叩いたりすることも併用してみました。これらを何度か繰り返して、本文背が大体平らに戻ったところで、背の周辺の丸まりの逆側にガラス棒をあてがって上から重しをして何日か寝かせ、丸まり癖を取りました。かなり長い間、そのような形で置いておかれた本のようで、「こっちに来て、こっちに来て」と思いながらの修正は、まるで頑固な猫背の矯正のようだと思ったことでした。

本文背の周辺の歪みを修正する

 本文背が大体平らに戻り、背の周辺の丸まりも大体解消されたところで、和紙でまとめの背貼りとヒンジの背貼りをしました。本文紙の一部にあった小さな欠損と破れは、依頼主の方との相談の結果、破れのみを補修して、欠損そのものは補填しないことにしました。それから、本文背に厚手の和紙で作ったホローチューブを貼りました。

ヒンジの背貼り

 背と平が一体の表紙は、背の部分の天のめくれを着色和紙で補修し、本文と接合しました。

背表紙の天の補修
うら見返し効き紙ノドの補修

 両見返し効き紙のノド周りを整え、糊を引いて、表紙うらノドに貼り込みました。この本の見返しは、元々ノドだけの接着になっていたので、同じように貼り戻しました。

 次は、ジャケットの補修です。

ジャケット背の欠損した文字の復元
ジャケットの背の天の欠損部の補修
ジャケットのうら表紙側の袖の補修

 まず、天の欠損部にある欠字の再生のために、あらかじめジャケットの背や本の背表紙の書名部分をコピーしておきました。ジャケットの背のコピーの欠字部分に手書きで書き入れ、具合を見て、決定したらペンでなぞってくっきりさせておきました。

 劣化して欠落しそうな背の裏側全体に、中厚の着色和紙を貼って補強しました。それから、平表紙の天地の破れや脆くなっている部分に、和紙で裏側片面もしくは裏表両面から補修しました。背の天地の欠損は、まず中央部の小さな欠損と地の部分を着色和紙で、表側から補填しました。

天は文字の端をほんの少し残した状態で欠けていたので、復元した文字とうまく繋がるようにしたいと思いました。ライトテーブルなどがあれば、欠損部の形に添うように補修紙を切り出せますが、持っていないので、少し工夫をしました。透明アクリルの仕切り棚を用意し、その下に小さな灯りを置いてみました。仕切り棚の上に欠字を書き入れたコピーを乗せ、上に透明アセテート・フィルムを敷いて補修紙を乗せて、輪郭線を水筆でなぞって喰い裂きにしました。そのあと、アクリル絵の具を使って、手書きで欠字を書き入れました。その後、天の欠損部に貼り込みました。

 背も含めて表紙部分の補修が終わってから、ジャケットを本に着せて、具合を見ながら袖の部分の補修をし、最後に、袖の折り山全体を薄い和紙でカバーしました。

処置後・変形を矯正した背
処置後・表紙全体

 背の補修に使用した着色和紙の色味が少し濃かったのではないかと、心配しましたが、依頼主の方に良い感じの古色と言っていただき、安堵しました。

記録の公開をご快諾くださった依頼主の方に感謝いたします。


修復・記録 : 安藤喜久代


2023年4月20日木曜日

修復報告展と講座

日比谷図書文化館でメンバーが携わった修復の展示が始まっています。
新緑の美しい日比谷公園にある図書館、お時間がございましたらぜひご覧ください。


修復前の状態、綴じ割れ

修復後の3冊(担当:近藤)


特別研究室企画展示 
100年後も手に取れる本に 内田嘉吉文庫修復報告2023

2023年4月18日(火)~6月18日(日)

平日:10:00−20:00、土曜日 10:00−18:00、日・祝日 10:00−16:00

2022年度、日比谷図書文化館特別研究室は内田嘉吉文庫をはじめとする17点の所蔵資料の修復を行いました。昨年開業150周年を迎えた日本鉄道史関連本や美しい図版が収められた大型の洋書、関東大震災の記録など様々な種類の資料が安心して手に取れるよう修復されました。書籍修復家による創意工夫を凝らした修復過程の記録を公開し、修復された資料を展示します。(図書館HPより)

4階 特別研究室

日比谷図書文化館
東京都千代田区日比谷公園1-4


企画展示関連講座 資料を活用するための修復―合冊製本から分冊製本へ―

2023年6月17日(土)14:00~15:30

講師:近藤 理恵(製本・書籍修復家)

雑誌や書籍を一冊にまとめて資料を保存する「合冊製本」。特別研究室所蔵資料の中にもこの方法で保存されてきた資料が多数あります。しかし、合冊製本の資料は開きにくい、かなりの重量があるなど、必ずしも扱いやすいものではありませんでした。そこで、特別研究室では2020年度より合冊製本を「分冊製本」に戻す修復を試みています。本講座では特別研究室所蔵資料の分冊製本による修復を手がけた講師が、より扱いやすく、活用しやすくするための修復の作業過程とその意義についてお話しします。(図書館HPより)

会場:スタジオプラス(4階 小ホール)
参加費:1000円
申し込みフォームより事前申込、定員60名

申込詳細 

日比谷図書文化館
東京都千代田区日比谷公園1-4
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/