2019年2月15日金曜日

『ガリヴァー旅行記』の修復

1735年出版の通称『ガリヴァー旅行記』を修復した。
ジョナサン・スウィフトのこの著作の正式な題名は、Travels into Several Remote Nations of the World by LEMUEL GULLIVER"。お預かりした本の書名はVOLUME III of the Author's Works Containing Travels into Several Remote Nations of the World by LEMUEL GULLIVER"という。1726年の初版は過激な内容のため、版元が勝手に校正して出版。それに不満を持ったスウィフト自身が校正した1735年版が研究対象としての決定版で、スウィフト研究者であるご依頼主にとって重要な内容を持つ。
また、アイルランドの恩師から贈られた、ご依頼主にとってかけがえのない本であるが、おもて・裏の表紙が取れかけているので修復してほしいというご希望だった。その他の部分は出来るだけ元の状態で残したいということで、革の傷みも原則、そのままにしておくことになった。 
 おもて表紙

裏表紙 

内側

背表紙を取り外すことから作業を開始した。取り外した革は、新しい革で背表紙を作り、その上に貼り戻すつもりだったが、革の劣化がはなはだしく、ぼろぼろにくずれるため元に戻すことができなかった。ご依頼主の了解を得て、背表紙は新しい革に置き換えるのみとした。
(ひら)の表紙(おもて・裏表紙)2本の支持体(背から出ている麻紐)のみでつながっていた。おもて表紙は一本が切れており、もう一本も切れかけている状態。裏表紙はつながっているものの、二本とも切れかけている状態だった。
折丁を綴じる際に、綴じ糸を麻紐(支持体)に巻き付けることにより、背バンドという突起ができる。背表紙を取り外す前は、そのような綴じ方法だと思っていたが、実際に背表紙を取り外したところ、綴じは支持体なしの糸のみで行われ、麻紐をあとから別の糸で本体にくくりつけたものと判明した。くくりつけた5本の支持体のうち、一番上(第一ネール)と一番下(第五ネール)のみが平の表紙に通してあり、中三本は背巾を残し切ってあった。
上下の2本しかおもて・裏の表紙に接続されていなかったため、表紙に負荷がかかっていたと思われる。中央の3本目も表紙に通すことにより、負荷が軽減されると判断した。
細めの麻紐を糸でくくりつける
(上部)の花布はわずかに巻き付けてあった赤い糸が残っており、現状維持とした。地(下部)の欠損は背の代替の革と同じもので作り、貼り付けた。
3本の支持体を平の表紙の表側から内側(見返し側)に通したあと、 背に代替の革を貼った。
持ち上げておいた見返しきき紙のノドの下から遊び紙ノドの部分にかけて、和紙を貼り、見返しきき紙を元に戻し貼り付けた。
本体の修復が終わった状態
背表紙に金線を箔押し。オリジナルで第2ネールと第3ネールの間に押してあった「3」の数字をローマ数字で箔押しした。
HPC(ヒドロキシ・プロピル・セルロース 繊維素溶液)を革の補強のため、塗布。
保存箱(夫婦箱と中性紙による通い箱)作成。クロス製の夫婦箱には、”GULLIVER’S TRAVELS”と箔押しした革をはめ込んだ。
夫婦箱と本体
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お返しした本は、今年3月にアイルランドの恩師を再訪される際にお見せする予定とのこと。それに先立ち、ご依頼主からメールにて写真を送られたとお知らせいただき、「280年以上前の書籍が立派に甦って、有り難く思います。(恩師の先生が)見事な修復に驚くことと思います。」との感想を寄せていただきました。
(修復・記録:平まどか)

記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に、感謝いたします。