夏目漱石著『虞美人艸』の修復記録です。
113年前、明治41年に刊行された『虞美人艸』、橋口五葉装幀の表紙は石版、木版の紙装。
時を経て、背や小口、接続部分などが擦れてモチーフの花も掠れているところがあります。
本文の綴じに緩み、折れたり、破れがあるページもあり、表紙との接続が外れかけています。後ろ見返しは署名を隠すためか、遊び紙を貼り合わせてありました。
帙は、折り目部分の外側がほぼ切れている状態で、内側の和紙で繋がっている状態でした。
背の寒冷紗などを除去、綴じ糸を外して折丁に分解。本文は2本の麻紐が通り、4つの穴の間を抜き綴じで綴じられていて、折丁の片方の端にしか糸が通っていない部分もあり、そのために長年の間に綴じが緩んできたのだと思われます。ひどく傷んでいるページもありましたが、飛び出ているのは、折丁を構成する際に、貼り込んだページの位置が少しずれてるためでした。
後ろ見返しが貼り込まれている
本文の修理を終えて折丁に揃える
元のかがりで使われていなかった真ん中の穴にも支持体を入れる
折丁の破れなどを和紙で補修し、新たな見返し紙に半葉の紙を加えて折丁を整え、元の穴を活かして3本の支持体を通し、細い麻糸で本かがりで綴じました。
背固めをして和紙を貼り、寒冷紗、クータを付けて、本体を整えます。
染めた和紙を表紙の下に入れ、上から極薄の染め典具帖で補修
表紙の背の内側に残っている膠を除去し、楮和紙で補強、欠損部分は色和紙で補修しました。
表紙の擦れて薄くなっている部分などは補彩ではなく、手染めした楮和紙や染め典具帖和紙で補修しています。
本文と表紙の背を接続し、半葉の紙で段差を埋めてから見返し用紙を貼り、仕上げました。
クータにより表紙と本体の間に空間ができて開きやすくなる
帙の内側の和紙とクロスを外し、ジョイント部分を楮和紙で補強、表側の切れている接続部を色和紙と染め典具帖和紙で補修しました。
毎回、緊張する修復作業ですが、装幀の美しい本に携われるのは愉しい時間でした。仕上がりにもご満足いただきほっとしています。
記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝申し上げます。
修復・記録:藤井敬子