2021年10月25日月曜日

『THE HERBALL OR GENERALL Historie of Plantes』 の修復

1636年に出版された植物画の本の修復をしました。

処置前:おもて表紙と背

 この本の現在の装丁はオリジナルのものではなく、再製本されたものでした。明るい茶色のモロッコ革の総革装で、疑似背バンド付きです。一見すると、背表紙に金文字でタイトルが押されているだけですが、表紙うらの三方のチリに金の箔押し模様があったり、背表紙の天地のコワフに金線の箔押しがあったりと、細かいところに手のかかった、美しく仕上げられた本でした。

処置前:おもて見返し 

                         
                                                  処置前:本文紙前小口のインク染み


処置前:地の花ぎれ

修復前の状態はというと、背表紙とうら表紙は本文と接続していましたが、おもて表紙だけノドから切れて、外れていました。表紙全体にインクをこぼしたような染みが飛んでおり、カドや小口には小さな擦り切れやひっかき傷がいくつかありましたが、それらはほとんど気にする必要はありませんでした。

 白い見返しは、再製本時に新たにつけられたもので、表側も裏側もノドが切れていました。遊び紙の前小口は本文より少し長かったので、折れや破れがそのあたりに集中していました。本文紙は、最初と最後の数枚には小口に傷みがあり、補修が必要と思われました。それ以外では、後ろの方の数十ページの前小口に、インクをこぼしたような黒い染みが付いていました。

 綴じは、麻紐5本を支持体とした本綴じで、おもて表紙のノド以外では切断箇所は見当たりませんでした。その他には、えんじ色と黄色と白の糸で編まれた丈の高い花ぎれが、天地ともにきれいに残って付いていました。

タイトルページの補修

 作業は、まず、両見返しの遊び紙と本文紙数枚の小口の補修から始めました。インク染みの部分については、初めはページの片面に和紙を貼って補強することを考えましたが、インクの成分など不明なことも多く、幸い、文字にはかかっていなかったために、このままでも今までのような利用は可能と考えました。それなので、大半のページには手を触れず、明らかに大きめの破れがあったところだけ補修することにしました。

本文背から背表紙をはがす

 次に、背表紙を本文背から剥がして、うら表紙からも切り離しました。本文背があらわになったところで、本文背の膠と古い背貼りを除去しました。

うら表紙の支持体の繋ぎ

 それから、編み花ぎれが外れてしまわないように和紙を貼って固定し、切れていた支持体に新規の麻紐を繋ぎ直しました。 和紙でまとめの背貼りをし、自分で裏打ちをした麻ダックをヒンジの背貼りとして貼りました。

本文と表紙の接合

 この本はとても丁寧に作られていて、表紙うらがノドまできれいにフラットになっていました。作業するために触っているうちに、本文と表紙の接合のためにそこを持ち上げたり、新たに何かを貼り付けたりするのが忍びなくなってしまいました。それで、表紙のノドの厚み部分を割り裂いて、そこへ支持体とヒンジの背貼りのハネを押し込んで、本文と表紙を接合しました。

背革の表紙貼り

 その後、本の開きを良くするためのホローチューブを和紙で作って本文背に貼り、さらに背の芯紙を貼りました。

見返しノドの化粧貼り

 この本の表装材はシボのある革でしたが、同じような色や風合いの革が調達できず、手持ちのシボのない修復用の革で代用することにして、その新しい背革で表装し直しました。それから、元の背表紙の裏側の古い芯紙を削り落として薄く整え、新しい背革の上に貼り戻しました。今回は、天地のコワフ部分にも金線の箔押しがあったので、そこも、元革の裏を薄く整えて新しいコワフの上に貼り戻しました。そして最後に、表紙全体に保革油を薄く延ばして磨きました。

貼り戻されたコワフ

処置後:表紙全体

John Gerarde著  
Adam Islip Joice Horton and Richard Whitakers
London,1636年/350×244×100mm

修復・記録:安藤喜久代


記録の公開をご承諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。


0 件のコメント:

コメントを投稿