114年前に刊行された夏目漱石著『鶉籠』は橋口五葉の装幀。
淡い裏柳色に花紋様と描き文字が空押しされた紙装です。
表紙も擦れや汚れなどがあり、背表紙の中央部分に縦割れの亀裂が入っています。
できるだけ元の装幀のままで修復する方針ではじめました。
作業は、本文に湿気臭さがあったので、晴天の日に曝涼を試みてからクリーニングをしました。見返しのノド側をはずして、本文と分離し、背の膠をできるだけとってから、折丁に分解しました。
この本も抜き綴じで、綴じ穴の切れ目が深く、ノド側で本文紙が折れたりしています。
背の掃除をしてから、和紙で各折丁を補修します。
染め典具帖和紙で綴じ穴を埋める
補修を終えた本文に、元の綴じ穴を活かして3本の麻紐を渡し、細い麻糸150番で本かがりで綴じました。背に和紙を貼り、和紙のクータをつけて本文を整えます。
見返しを取り替えず、綴じなかったので、麻紐は寒冷紗につけた
表紙裏の部分を和紙で、天と地の折り返しの部分は内側に和紙と芯を入れて補修。表紙の角や窪みを染めた和紙で補修し、最後に和紙部分にアクリルメディウムを塗布しています。
角の擦れや窪みを和紙で補修
本体と、表紙を接続して、見返しを貼り戻して仕上げました。
布装のシェルケースを作成、背文字をフロッタージュして作成した原稿を、デジタル加工してタイトルとしました。
『鶉籠』夏目漱石著
明治40年(1907年)/春陽堂
H227×152×D41mm
装幀:橋口五葉
古書を解体すると、先人の手作業の痕跡をたくさん見るのですが、参考になることも、疑問に思うこともあり、綴じ穴の切れ目の深さもその一つでした。
数多く発行された中の一点ですが、この本は依頼主のご希望で修復したことによって、新たな来歴を持つことになりました。修復がこの本の寿命を少しでも延ばすことになっていれば良いなと願っています。
記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝申し上げます。
修復・記録:藤井敬子