2018年11月1日木曜日

昭和初期、90年前の書籍修復

「不謹慎な宝石」と「春琴抄」の修復

昭和初期の、凝った装丁の書籍2冊の修復を行いました。

修復計画:依頼者様(個人蔵)の希望は、できるだけ装丁を変えないようにとの事で、現状維持し、最低限の修理を施すこと。欠損や破れ部分の補修。革、クロスなど素材のメンテナンス。塵などはドライクリーニングで取り除く。合紙の取り替えはしない。 

◆『不謹慎な宝石』
耽奇館主人 昭和4年 国際文献刊行會 192×118×34mm

製本仕様:赤山羊革の背革装で、表紙は木製、木目を生かして中央に黒の押し模様。
背に金箔押しのタイトルと空押し模様。小口は三方に墨流しのようなマーブル付け、花ぎれは多色のテープ。色見返しは水色モアレ紙。






損傷状態:
表紙/背革肩の裏側下半分に破れがあり、過去の修理で糊が入り、ホローバックが開かなくなっていた。同じ場所の色見返しにも破れあり。
中身/色見返しに浮き有り、本文と色見返しに茶色のしみ。綴じは良好。
タイトルページ前のハトロン紙茶変。

主な作業:
ドライクリーニング(刷毛や修復用スポンジで埃や汚れを除去)、表紙は固絞りの布で拭く。糊を取り除き、革の破れを補修。革の保革メンテナンス。本文見返しの破れを補修。






◆「春琴抄」
谷崎潤一郎 昭和8年創現社  190×129×27mm

製本仕様:半黒クロス装角背/表紙に板紙に黒漆を塗ったもの。背と表紙表に金文字でタイトル、見返しは模様和紙で、表紙側は45mm程と短く、漆塗り表紙を見せている。
花ぎれは白テープ、小口白、タトウ入り




損傷状態:背クロスの両側に破れ、クロスは薄いため、全体に弱くなっている。虫損あり。背の下部につぶれあり。
過去の修理で背は中身に糊付けされ、クロスの破れ部分に上から黒和紙が貼ってある。色見返しノド部分に破れあり。本文紙に茶しみあり。綴じは良好。

作業:ドライクリーニング、旧修理の和紙や糊を除去。新規背紙およびクータをつける。
背は外し、裏打ちした黒和紙で背クロスの補修(見返しは外さずに補修)、表紙につなげる。セルロース・アルコール溶液でクロスと見返しの保護。




結果:元の素材を残して、破れや欠損部分を補修するとともに、クリーニング、メンテナンスも施しました。過去の修理で糊付されて開きも悪くなっていたのを直し、将来の保存や使用に耐えられるようになりました。
(修復・記録:近藤理恵)

記録の公開をご快諾くださいました依頼主に感謝いたします。

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