処置前:おもて表紙と背のジョイント破損部
修復前の状態は、おもて‐背‐うらが一体となった印刷表紙が本文から完全に分離し、特におもて側のジョイントが酷く破損していました。表紙の印刷面にも傷みが見られ、特に、天にだけ出ていたチリの部分を含む三方の小口は、白い芯の部分が露出していました。
綴じは、切断箇所はありませんでしたが、全体がぐずぐずにゆるんでいました。本文紙はしっかりしていて良好。黒鉛筆やマーカーの書き込みが多数あり、この楽譜が実際に使われたことを物語っていました。実用的な楽譜なので、見返しや花布は付いていません。
綴じは、切断箇所はありませんでしたが、全体がぐずぐずにゆるんでいました。本文紙はしっかりしていて良好。黒鉛筆やマーカーの書き込みが多数あり、この楽譜が実際に使われたことを物語っていました。実用的な楽譜なので、見返しや花布は付いていません。
処置前:綴じ糸の緩み
作業は、まず綴じを解体して折丁の背の補修をし、麻緒を支持体にするために新規の綴じ穴を目打ちで確保しました。この楽譜は、使われていたことがありありとわかりながらも、とてもきれいな状態で保たれていました。そのことから、依頼主が大事にしていたのがよくわかったので、できるだけ傷つけずに綴じ直しをしたいと思い、通常ならば麻ひもを支持体として使うところを、目打ちで針穴を開けるだけで済む麻緒にしました。麻糸で綴じ直しをし、和紙で背貼りをし、開きを良くするために和紙で作ったホローチューブを本文背に貼りました。
綴じ直し
おもて表紙のノドの表装材を持ちあげる
新規の背の表装材の表紙貼り
おもて表紙の背と天
綴じの回復した本文
この楽譜は、依頼主のフランス留学時に、先生から直接教えを受けた時に使われたもので、先生及びご自身も、いろいろと書き込みをした忘れがたいものだということでした。また、帰国したのち上演の機会にも恵まれ、好評を博したとのことで、その意味でも思い出深い総譜だそうです。現在出版されている総譜は、この版とは違いもっと味気ないデザインの表紙になっているそうで、依頼主としては、とても気に入っているこの表紙デザインの総譜を、これから先もできるだけ良い状態で手元に置いておきたいと、修復を決意されたとのことでした。
演奏のため・練習のために使われる楽譜は、いろいろと書き込まれたり、譜めくりのために手垢で汚れたり破れたりするのが当たり前で、この総譜もその例に洩れず、たくさんの書き込みやページの開閉による綴じ糸のゆるみがありました。にもかかわらず、破れなどがほとんどなくて、依頼主が大変注意深く扱っていたことがよくわかりました。そこに、依頼主の思いを感じ、共感しました。今回、このような幸せな楽譜のためにお手伝いができたことを、とてもうれしく思います。
(修復・記録:安藤喜久代)
記録の公開をご快諾くださいましたご依頼主に感謝いたします。
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