2022年2月24日木曜日

大型古版本の修復

大型古版本の修復 - ジョイント・タケティング

西洋古版本を扱う古書店のご店主より、大型本の修復依頼があった。三巻本のうちの一冊で、おもて側の表紙が本体からはずれていた。背革全体を外せるのであれば、支持体となる新たな麻ひもを本体の背に綴じ付け、その麻ひもを表紙の芯材に通して連結するという作業ができるが、今回は背の革が特に傷んでおり、全面的に外すことができないことから、ジョイント・タケティング(Joint Tacketing)という別の方法で修復することにした。

ジョイント・タケティングは、表紙の芯材と本体に小さな穴をあけ、太めの麻綴じ糸を通すことで連結する方法。背の革は一部を持ち上げるものの、全体を外す必要がない。

修復前 表紙

最初に見返し遊び紙を本体からはずし、裏側から補強の和紙を貼った上、傷んだ部分を修理した。本体の耳の部分に補強用の厚手和紙を貼った上で、ピンバイスというドリルを使って、背に向かって穴をあけた。本体の方は背の革を15ミリほど持ち上げておいた。表紙内側の見返しきき紙を15ミリほど持ち上げ、ピンバイスを使って、芯材の厚みの方から斜めに穴をあけた。8か所に穴あけをし、本体と表紙芯材に麻糸を通し連結した。芯材の上で糸を固定したのち、本体耳部分に貼っておいた和紙の余分を芯材側に糊付けし、連結の補強とした。

見返し遊び紙
穴あけ作業
綴じ糸通し1
綴じ糸通し2

外しておいた見返し遊び紙を耳に貼り直し、和紙の足を芯材の上に補強として貼ったのち、持ち上げておいた見返しきき紙を元に戻した。おもて側は、表紙ノドの革も10ミリ程度持ち上げ、背革の持ち上げた部分に亘るように新たな革を貼りつけた後、持ち上げておいた革を元に戻した。裏表紙側も、同様の修復を施した。

表紙の四つの角が共に欠損していたので、新たな革で埋めた。

革は既に傷みが激しかったが、補強としてセルロース溶剤のHPC(ヒドルプロピルセルロース)を塗布した。

中性紙による保護ジャケット、本の開閉時にかかるノドのストレスを軽減する目的で、中性紙段ボールによる書見台を作成した。

修復後(正面)
修復後(横)

依頼主は当初、これだけの大きく重い本がはたしてうまく直るのかどうかと心配されていましたが、作業内容の説明とともに実際の修復結果をご覧いただき、満足していただきました。
記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。

修復・記録:平まどか

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