2024年12月9日月曜日

半革装法律書の修復


 「改正日本刑法論」という明治期の書籍の修復を行った。表装材の背表紙が背からはずれ、裏表紙とかろうじてつながっている状態だった。新しい革を土台として、元の背表紙を貼り付けることにした。また布装部分も傷みが激しかったので、新たなクロスに替えることにした。

修復前の表装材 背表紙の状態
 

 本体の綴じは比較的しっかりとしていたが、最初の折丁にゆるみがみられた。前見返し、別丁トビラを外し、本体との間で糸綴じし、トビラを貼り戻した。寒冷紗を貼り、クータで背の補強をした。間紙は和紙に取り換えた。

 

折丁のゆるみ

間紙の取り替え
 

傷んだ布をすべて除去し、おもて表紙天の欠損部分を補った後、新しい製本クロスを貼った。表紙内側は見返しきき紙を10ミリほど持ち上げ、クロスの折り返し部分を貼った後、紙を戻した。   

おもて表紙天の欠損部分

欠損部分の補修
 

表紙芯材の内側についていた3本の支持体を外し、芯材外側のノドに貼り付けた。

背表紙の土台となる新しい革を、裏表紙側のノド10ミリくらいに貼り付け持ち上げておいた革を戻し、背表紙までを新たな革に貼り付けた。次におもて表紙側ノドに新たな革の端を貼り付け、裏側と同様に持ち上げておいた革を貼り戻した。

支持体の元の貼り付け位置

おもて表紙ノド つなぎ前

元背表紙を土台革に貼り付け


 表紙内側の作業に戻り、本体の背と背表紙を貼り付けた後、おもて・裏とも本体から続いている和紙を表紙ノドに貼り付け、その上に新たな製本クロスを貼り付けて、見返しきき紙のノド部分を貼り戻した。おもて・裏とも見返し遊び紙を貼り付けた。

革の補強として、HPC(繊維素溶剤)を塗布。

中性紙による保護ジャケット、(本体の重みを支える)土台付保存箱、書見台を作成。

 

本体からの和紙を表紙側に貼り付け前

ノドに新しいクロス貼り付け

作業終了後

 

 研究に必要な、かつ内容的にも重要な本ということで、閲覧頻度の高さに対応できることを念頭に作業を進めました。

記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします。

 

修復:平まどか


2024年10月28日月曜日

『不思議の国のアリス』美しい製本

修復前の状態

著者:LEWIS CARROLL
資料:ALICE’S ADVENTURES IN WONDERLAND.
JOHN TENNIEL挿画 1904年 ロンドン、ニューヨーク刊行

製本仕様:くるみ製本、総革背バンド装、三方金。見返しマーブル紙。表紙革の折り返しにロールによる金箔押し装飾。表紙の裏にイギリス最古の書店HATCHARDSのサイン有り。個人蔵

修復前の状態
小型の美しい青色の総革製本の表表紙が見返しと共に本体から分離していた。全体的に擦り傷が多かった。現存の装飾をそのまま残してほしいとの依頼があった。

作業内容


本体から背表紙革を部分的に剥離して丈夫な白い和紙と革の色に染色した和紙を挿入した。白い和紙を見返し側、染色和紙を表紙側に利用して分離した表表紙を本体に接続した。傷んだ表紙角や背バンドを染色和紙で修理した。見返しノドを薄手の和紙で補強した。表紙ジョイントの外側に染色和紙を貼って補強した。

修復後

 

修復担当:岡本幸治(2024年9月)


2024年9月29日日曜日

たれつき表紙の聖書の修復

たれつき表紙の聖書修復を行った。本体の綴じはしっかりしていたが、表装材の「たれ」になっている箇所(四つの角、天地)に傷みがあり、新しい表装材に替えることになった。

 

修復前の表装材 背の天

修復前の表装材 角

ページ間のクリーニング中に、奥付ページのノドの破れを発見。表紙から支持体の布テープをはがし、表紙と本体を分離させたのち、奥付ページの修理を行った。

 

表紙をはがす

最終頁ノドの修理 

見返しの汚れが目立ったので新しい見返しに替え、保護のためのギャルドブランシュも新たに付け加えることにした。綴じ全体はしっかりしているものの、前と後ろのいくつかの折丁のノドに若干のゆるみがあり、ギャルドとそれら折丁の間を綴じてもゆるみが解消されないと判断、先に背固めをして寒冷紗を貼った上から、前後の折丁とギャルドの間を糸綴じ、再び膠で背固めをした。


ギャルドブランシュの本体への綴じ

 

新たな2本のしおりひもをつけ、花切れ、補強のためのクータ(チューブ状にした紙)を貼って、中身の作業を終えた。

表紙芯材の切り出し、革の切り出し、革漉きを経て、表紙貼りを行った。本体と背表紙を付け、内側の埋め立て(コンブラージュ)まで行い、箔押し作業に移行した。画像6 表紙貼り 内側の埋め立て(コンブラージュ)まで行い、箔押し作業に移行した。

表紙貼り 内側

元の見返し

新たな見返し
 

 箔押し作業から本が戻り、見返しきき紙を糊付けし、作業終了。

新たな背表紙
 
空押し線装飾

背表紙


たれつき表紙への改装は普段あまり機会がなく、事前にスタディを行ったのち、ご依頼の聖書改装に臨みました。貴重な経験となりました。

記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします


修復、改装: 平まどか  タイトル押し、空押し装飾: 近藤理恵



2024年7月18日木曜日

背が固すぎると本がこわれやすい



修復前 背表紙が取れそう

資料名:NIPPON.Archiv zur beschreibung von JAPAN
            ERSTER BAND.
著者名:Fr. von Siebold.
出版年、出版地:1897年 ビュルツブルグ ライプチヒ
製本仕様:くるみ製本、半革角革背バンド装。表紙は白色の擬革紙。
270×190×厚さ65mm。2巻本の1冊。個人蔵

修復前の状態

第1巻の背表紙が本体から分離しかけていた。背表紙天側末端のコワフが破損し、部分的に欠損していた。背表紙が背タイトルの下側付近で2つに破損分離していた。

作業内容

見積もりのために送っていただいた画像を見て、本が「針金綴じ」されている可能性に気が付いた。「針金綴じ」が錆びてしまうと、大がかりな修復になる。所蔵者の方に、見積前に実物を観察させていただくようお願いした。思った通りの「針金綴じ」だったが保存状態が良好なので、今回は背表紙の傷みの修理に限定することになった。

 背表紙の破損の原因は芯紙に柔軟性がなく丈夫すぎて突っ張って、本を開くことによる負荷が背表紙のおもて・うら両側のジョイントに集中したことによる、と考えた。


分離した背表紙

表紙の裏側を薄くする

傷んだ材料を取り替える、傷んだ部分を補強する、丈夫すぎる背を薄くして柔軟性を持たせる。本の開きによる負荷を分散して開き機能を構造的にサポートして、本を安全に読むことができる。本の背に和紙を貼り、その上から筒状の紙(クータ)を貼り、背表紙芯紙、薄くした元の背表紙革の順に張り戻した。クータを導入することで、本を開く際の構造的負荷を分散することが出来る。欠損部や破断部などは染色和紙で補強、修復した。背表紙は柔軟性を回復した。


背表紙を戻す


柔軟な背表紙

担当:岡本幸治(2024年7月)

2024年7月12日金曜日

修復報告展2024

工房メンバーが携わった修復の展示が開催されます。




特別研究室企画展示 
「100年後も手に取れる本に ~内田嘉吉文庫修復報告2024~」
2024年7月16日(火)-9月30日(月)
平日 10:00−20:00/土曜 10:00−18:00/日曜・祝日 10:00−16:00

資料を「活用しながら保存する」が特徴である特別研究室では、2023年度、内田嘉吉文庫をはじめとする所蔵資料7点の修復を行いました。破れた折りたたみ地図の補修など一般的な修復の他、透明フィルムが剝がれかけた洋書の表紙の改装や合冊された明治期の雑誌の分冊化など書籍修復家による創意工夫を凝らした修復過程の記録を公開します。書籍修復家・近藤理恵氏が講師を務める東洋美術学校保存修復科の学生による修復本もあわせて展示します。

4階 特別研究室
日比谷図書文化館
東京都千代田区日比谷公園1-4


内田嘉吉文庫関連の講座も開かれます。

内田嘉吉文庫の一冊 第2回
「海を渡った江戸紫のブックデザイン」
2024年9月28日(土)14:00−15:30
講師:野村悠里 (東京大学大学院 人文社会系研究科文化資源学研究専攻准教授)
会場:4階 スタジオプラス(小ホール)

詳細は図書館HPをご覧ください。
申し込み方法:日比谷図書文化館HPの申し込みフォームから

2024年2月18日日曜日

カレワラの修復

『カレワラ』の修復

フィンランドの叙事詩「カレワラ」の修復を行った。「フィンランド國出版費補助豪華版」限定版150部という大型の半革装本で、猪熊弦一郎の挿画が入っている。ご依頼主のご親戚が翻訳を手がけたとのこと。

背表紙はごく一部を残し欠損、背貼り紙が残っているのみで、背表紙とおもて表紙をつなぐノドは分離、背表紙と裏表紙にかけてテープが貼りつけてあった。前見返のノドにゆるみが見られた。

献呈署名のある前見返し遊び紙は残し、おもて・裏とも新たな見返しに替えた。また、表装材のバクラム(製本クロスの一種)は残し、革は新しいものに替えた。

 


修復前の表装材の様子


背の状態

 おもて見返しのきき紙の一部と献呈署名のある遊び紙を保存。おもて・裏見返しのその他の部分を本体から外した。新たな見返し(2枚一折)を本体に糸で綴じ付け。膠で背固めし、新たな寒冷紗を貼った。表装材と同じ革で花ぎれ付け。

カルカス(おもて・裏表紙をつなぐための厚紙)を作成し、元の表紙芯材と貼りつけ。新たな革を切り出し、革漉き。バクラムの部分を残し、背と平(ひら)のノド側部分、角革の表紙貼り。新たな見返しのきき紙を表紙内側に貼りつけ、本体作業完了。

              

 おもて見返しのきき紙と遊び紙

カルカス 

  革の代替作業

 

一旦、箔押し作業に出し、戻ってきた本のスリップケースを作成した。元の箱から外題と背タイトルの印刷部分を取り外し、補強として裏打ちした。本体の重みを支える土台を作成、箱の内側下方に貼りつけた。ケースの組み立て後、出し入れ口に革を貼り、強制紙(耐久性のある厚手和紙)で表装、元の外題と背タイトルを貼りつけた。

 


箔押し装飾 

元スリップケース 


スリップケース 


 傷んだ革を新しいものに替えたことで、表紙のバクラムもあまり古さを感じない印象になりました。将来はフィンランド大使館への寄贈の可能性もあるということ、フィンランドのことなど、興味深いお話の数々も伺いました。記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします

 

修復、改装:平まどか  タイトル押し、金箔装飾:近藤理恵


2024年2月14日水曜日

日比谷でルリユール 装飾

工房メンバーも出品する展覧会です!



東京製本倶楽部25周年記念 日比谷でルリユール 装飾
2024年2月20日(火)-4月14日(日) 

(3月18日月曜休館、月-金10:00−22:00、土-19:00まで、日祝日-17:00まで)

4階特別研究室企画「内田嘉吉文庫に見る民族衣装の世界 -19世紀・服飾による異文化との出会い-」に連動して、ファッション、インテリアからデザイン全般まで「装飾」をテーマにした会員によるルリユール作品を展示します。16世紀の古版本から現代のルリユールまで、多様な書物の装飾と製本スタイルをご覧ください。

日比谷図書文化館 3階エレベーターホール

https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20240220-25_6/