橋口五葉の装幀『吾輩ハ猫デアル・中編』の修復と改装をしました。
ご依頼の古書はどちらも8刷で同じ版ですが、本文も表紙の印刷も仕上がりが少し違いました。
表紙の痛み具合がひどい中編を改装することにして、もう一冊の欠落部分に移植することにしました。
表紙の損傷がある中編
改装する本をクリーニングしながら解体し、折丁に戻します。
折丁の背に残った膠部分を掃除して、背に薄口の楮和紙を貼って補強します。
折丁の背に綴じ穴は5つ、麻紐があったのは2箇所でした。
本文の破れ、折れなどを和紙で補修し、中性紙のギャルドブランシュにマーブル紙の見返しを貼ります。本文紙の元の穴を活かして、支持体3本を使って細い麻糸で綴じました。
背固め後、麻紐は3本
背固め後、和紙、寒冷紗を貼り、花ぎれを編みました。
元の綴じ穴の位置が、天地から離れていたため、抜き綴じをすると、綴じ糸が中央部分にしかかからない折丁も出てきます。そのため、天地の綴じの補強にもなればと、あえて編み花ぎれにしてみました。
2色の絹糸で2段編み
表紙ボードからタイトル部分を切り出し、背表紙は和紙で裏打ちをしておきます。
くるみ製本の表紙を中性紙のボードで作り、タイトルを埋め込む部分に窪みをつけて麻クロスを貼ります。
本文と表紙を接続し、見返しを貼り、タイトルを付けて仕上げます。
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もう一冊の『吾輩ハ猫デアル 中編』は、前小口のアンカット部分を表紙と一緒に切ったためか、斜めに切れて本文に歪みが出ています。
ドライクリーニングをして本文の糸を外して折丁に解体。見返し紙のノド部分を持ち上げて、麻紐の支持体2箇所を外します。
この本には、もう一冊にはあった真ん中の穴はありませんでした。
同じ製本所でも製本者によって違うのだな、と思いながら作業を進めました。
本文の前小口を中心に、破れ、折れなどを染めた楮和紙と典具帖で補修し、折丁を一晩プレスしてから、前小口側を少しカットして整えました。
天地にかがり穴を二箇所追加して開け、2本の麻紐の支持体を使って細い麻糸で抜き綴じ、背固め、和紙、クータを貼り、本文を整えます。
背タイトルと、別本からのイラスト部分を加えて背表紙を作成し、表紙を再生します。
表紙と本体を接続して、見返し紙を貼りもどし、表紙などを和紙で補い修復しました。
『吾輩ハ猫デアル 中編』夏目漱石著
発行:明治41年2月15日8刷(1908年)/大倉書店、服部書店/印刷:秀英舎
製本仕様:紙装、くるみ表紙、天金、アンカット H224×153×D23mm(写真左)
製本仕様:布装、くるみ製本、天金、アンカット H230×163×D23mm(写真右)
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装幀の歴史にも必ず登場する『吾輩ハ猫デアル』。100年あまりを経てきたこの本たちが、さらに未来に残ればと願います。
記録の公開をご快諾いただきました依頼主に感謝申し上げます。
修復、製本:藤井敬子
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