2025年6月5日木曜日

美術史の本の修復

1911年パリで出版された美術史の本『INGRES SA VIE ET SON OEUVRE』

半革角革背バンド装で大きくて重い本。綴じつけ製本で背はホローバック。
表表紙が本体から外れている。背表紙革の傷みも進行している。

 

従来の製本構造を維持するために、外れた表紙をジョイント・タケティング法で本体に再接続した。丈夫な麻糸と和紙を使って綴じつけ製本の構造を復元した。


見返しマーブル紙のノドが化学的接着剤で接着されていたので、その部分を除去して別のマーブル紙で補った。

背表紙内側に残っていた元のクータを修理して再利用した。機能しなくなっていたホローバックが復元された。

 

表紙革の接合部を修復用の染色和紙で繋いで補強した。




修復:岡本幸治


2025年5月18日日曜日

新約聖書の修復

新約聖書の修復   

 新約聖書改装のご依頼があった。ご依頼主が、祖父君が創立した学校へ入学された際に贈られた聖書ということで、最初のページに献辞があり、その献辞を残してほしいというのがご依頼主の一番のご要望だった。本文ページの綴じはほぼ問題なかったが、表紙の革がはがれ、背革が一部欠損していたので、別の山羊革で改装することにした。

おもて表紙のはがれ

背表紙の状態
 

表紙と見返し、背貼り紙、花切れを外した。少しゆるみのあった、献辞のある最初の折丁と最後の折丁に新たなギャルドブランシュ(2枚一折の保護白紙)を加え、本体に糸綴じした。布テープの支持体を3本使用。

ギャルドブランシュの追加 綴じ

背を軽めに丸味出し、寒冷紗貼り、傷んでいた元のしおりひもを新しいものに交換して、花ぎれを付けた後、クータ(チューブ状の紙)を背につけた。

花ぎれとクータ

表紙の下ごしらえとして厚紙でおもて・裏表紙の芯材をつないだ(カルカス)後に、表装材の革を準備。3色の候補から、ご依頼主にワインレッドの山羊革を選んでいただいた。

革漉き作業後、表紙貼りを行い、折り返した革との段差埋め立て(コンブラージュ)をして、見返しを貼り、本体作業を終了。

 

カルカス
             
                                                            内側の埋め立て作業(途中)

背タイトルを金箔押し。中性紙の保護ジャケットを作成した。

作業終了
献辞のページ

新たな表紙を得た聖書をお返しし、ご依頼主からは祖父君の懐かしい文字に再び出会えたと喜んでいただけました。

記録の公開にご快諾いただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします。


修復、タイトル箔押し: 平まどか