2019年6月19日水曜日

『失楽園』の修復

ミルトン著 ドレ挿画 『失楽園』の修復

修復前の状態
19世紀末にニューヨークで出版された縦34㎝×横27㎝×厚さ約4㎝の大きな本である。
外観上に大きな傷みが見当たりませんでしたが、ご依頼は「表紙・背が本体から外れそうになっているので修理をお願いしたい」というものでした。大切にされているご蔵書の「修復」というよりは今後に予想される傷みへの「予防的な手当て」を希望されていると理解いたしました。

見返し用紙の変色とシミ
背表紙と表紙末端部の傷み
修復前
『失楽園』の製本は総クロス装の版元くるみ製本です。表紙には金版による型押し装飾が施されています。子細に観察すると、表紙ノドや背表紙の天地末端及び表紙角で表装材クロスの傷みが起きています。見返しは白い紙ですが変色していてシミが多く発生していました。この機会に見返しをマーブル紙に取り替えたいとのご希望があり、サンプル5種の中から選んでいただきました。タイトルページと口絵との間の薄葉紙も取り換えのご希望がありました。そのほかに綴じがゆるんでいて外れかけている折丁がありました。

本の背の接着剤と寒冷紗を除去

修復作業
表紙と中身とを分離しました。タイトルページの薄葉紙を薄様の和紙に取り替えました。背貼り紙を取り除くと麻ひもの支持体3本を使った綴じであることが分かりました。中身の背を固めていた接着剤のニカワと寒冷紗を除去して、傷んでいた綴じ支持体を補強しました。見返し用紙のマーブル紙を和紙とデンプン糊で中身に接続して、背に寒冷紗と和紙クータを貼りました。

                   
背表紙末端を麻線維と染色和紙で補強
傷みやすい背表紙末端の折り返し部に麻の繊維を挿入して補強しました。表装材クロスの傷んでいた部分を染色した和紙で修理して、表紙と中身とを元に戻しました。マーブル紙の見返しを貼って終了しました。今回の作業で、表紙・背と本体がしっかり接続されて安心して本を開くことが出来るようになったと思います。


修復後
マーブル紙の見返し
背表紙末端部を染色和紙で補強 
修復・記録:岡本幸治
記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。

2019年3月17日日曜日

東京製本倶楽部20年、ルリユールのあゆみ展

東京製本倶楽部は1999年5月に設立、今年で20周年を迎えます。
工房メンバーも全員出品いたします。どうぞぜひご覧ください。


東京製本倶楽部20年、ルリユールのあゆみ展
2019年4月12日(金)-14日(日) 10:00-17:00 (14日は15:00まで)

イベント◆期間限定『日比谷製本工房』 製本の様々なデモンストレーションを開催

4月12日 11:00-12:00,14:00-15:00
4月13日 11:00-12:00,14:00-15:00
4月14日 11:00-12:00

会場 日比谷図書文化館 1階特別展示室 

100-0012 東京都千代田区日比谷公園1-4

主催 東京製本倶楽部  http://bookbinding.jp

2019年2月15日金曜日

『ガリヴァー旅行記』の修復

1735年出版の通称『ガリヴァー旅行記』を修復した。
ジョナサン・スウィフトのこの著作の正式な題名は、Travels into Several Remote Nations of the World by LEMUEL GULLIVER"。お預かりした本の書名はVOLUME III of the Author's Works Containing Travels into Several Remote Nations of the World by LEMUEL GULLIVER"という。1726年の初版は過激な内容のため、版元が勝手に校正して出版。それに不満を持ったスウィフト自身が校正した1735年版が研究対象としての決定版で、スウィフト研究者であるご依頼主にとって重要な内容を持つ。
また、アイルランドの恩師から贈られた、ご依頼主にとってかけがえのない本であるが、おもて・裏の表紙が取れかけているので修復してほしいというご希望だった。その他の部分は出来るだけ元の状態で残したいということで、革の傷みも原則、そのままにしておくことになった。 
 おもて表紙

裏表紙 

内側

背表紙を取り外すことから作業を開始した。取り外した革は、新しい革で背表紙を作り、その上に貼り戻すつもりだったが、革の劣化がはなはだしく、ぼろぼろにくずれるため元に戻すことができなかった。ご依頼主の了解を得て、背表紙は新しい革に置き換えるのみとした。
(ひら)の表紙(おもて・裏表紙)2本の支持体(背から出ている麻紐)のみでつながっていた。おもて表紙は一本が切れており、もう一本も切れかけている状態。裏表紙はつながっているものの、二本とも切れかけている状態だった。
折丁を綴じる際に、綴じ糸を麻紐(支持体)に巻き付けることにより、背バンドという突起ができる。背表紙を取り外す前は、そのような綴じ方法だと思っていたが、実際に背表紙を取り外したところ、綴じは支持体なしの糸のみで行われ、麻紐をあとから別の糸で本体にくくりつけたものと判明した。くくりつけた5本の支持体のうち、一番上(第一ネール)と一番下(第五ネール)のみが平の表紙に通してあり、中三本は背巾を残し切ってあった。
上下の2本しかおもて・裏の表紙に接続されていなかったため、表紙に負荷がかかっていたと思われる。中央の3本目も表紙に通すことにより、負荷が軽減されると判断した。
細めの麻紐を糸でくくりつける
(上部)の花布はわずかに巻き付けてあった赤い糸が残っており、現状維持とした。地(下部)の欠損は背の代替の革と同じもので作り、貼り付けた。
3本の支持体を平の表紙の表側から内側(見返し側)に通したあと、 背に代替の革を貼った。
持ち上げておいた見返しきき紙のノドの下から遊び紙ノドの部分にかけて、和紙を貼り、見返しきき紙を元に戻し貼り付けた。
本体の修復が終わった状態
背表紙に金線を箔押し。オリジナルで第2ネールと第3ネールの間に押してあった「3」の数字をローマ数字で箔押しした。
HPC(ヒドロキシ・プロピル・セルロース 繊維素溶液)を革の補強のため、塗布。
保存箱(夫婦箱と中性紙による通い箱)作成。クロス製の夫婦箱には、”GULLIVER’S TRAVELS”と箔押しした革をはめ込んだ。
夫婦箱と本体
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お返しした本は、今年3月にアイルランドの恩師を再訪される際にお見せする予定とのこと。それに先立ち、ご依頼主からメールにて写真を送られたとお知らせいただき、「280年以上前の書籍が立派に甦って、有り難く思います。(恩師の先生が)見事な修復に驚くことと思います。」との感想を寄せていただきました。
(修復・記録:平まどか)

記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に、感謝いたします。