2025年8月3日日曜日

京都の展示「ルリユール、美術」展



工房メンバーも出品する展覧会のご案内です。

第12回東京製本倶楽部国際製本展「ルリユール、美術」
12 ème Exposition de Tokyo Bookbinding Club : Reliures, Arts

2025年9月2日(火)-9月7日(日)11:00-18:00 
(2日は14:00から、7日は15:00まで)

京都市国際交流会館 姉妹都市コーナー・展示室』
〒606-8536 京都市左京区粟田口鳥居町2-1


https://www.kcif.or.jp/

主催:東京製本倶楽部
共催:(公財)京都市国際交流協会

◆ギャラリートーク

9月2日15:00〜、4日12:00~、14:00〜、7日13:00〜
(4日のツアーを2回に、7日の開催時間を変更しました)

◆製本ワークショップ「未綴じ本でルリユール」

9月6日(土)13:30-16:00

『製本用語集改訂新版』の未綴じ本を交差式ルリユールで仕立てます。

講師:藤井敬子 
会場:京都市国際交流会館 第3会議室
参加費:4000円(当日お支払いください。『製本用語集』未綴じ本を含む)
定員:20名(先着順 中学生以上)
お申しこみ方法:お名前、電話番号を明記の上、以下のアドレスまでお申し込みください。

関西展実行委員会 event☆bookbinding.jp (☆を@に変更してください)

2025年6月5日木曜日

美術史の本の修復

1911年パリで出版された美術史の本『INGRES SA VIE ET SON OEUVRE』

半革角革背バンド装で大きくて重い本。綴じつけ製本で背はホローバック。
表表紙が本体から外れている。背表紙革の傷みも進行している。

 

従来の製本構造を維持するために、外れた表紙をジョイント・タケティング法で本体に再接続した。丈夫な麻糸と和紙を使って綴じつけ製本の構造を復元した。


見返しマーブル紙のノドが化学的接着剤で接着されていたので、その部分を除去して別のマーブル紙で補った。

背表紙内側に残っていた元のクータを修理して再利用した。機能しなくなっていたホローバックが復元された。

 

表紙革の接合部を修復用の染色和紙で繋いで補強した。




修復:岡本幸治


2025年5月18日日曜日

新約聖書の修復

新約聖書の修復   

 新約聖書改装のご依頼があった。ご依頼主が、祖父君が創立した学校へ入学された際に贈られた聖書ということで、最初のページに献辞があり、その献辞を残してほしいというのがご依頼主の一番のご要望だった。本文ページの綴じはほぼ問題なかったが、表紙の革がはがれ、背革が一部欠損していたので、別の山羊革で改装することにした。

おもて表紙のはがれ

背表紙の状態
 

表紙と見返し、背貼り紙、花切れを外した。少しゆるみのあった、献辞のある最初の折丁と最後の折丁に新たなギャルドブランシュ(2枚一折の保護白紙)を加え、本体に糸綴じした。布テープの支持体を3本使用。

ギャルドブランシュの追加 綴じ

背を軽めに丸味出し、寒冷紗貼り、傷んでいた元のしおりひもを新しいものに交換して、花ぎれを付けた後、クータ(チューブ状の紙)を背につけた。

花ぎれとクータ

表紙の下ごしらえとして厚紙でおもて・裏表紙の芯材をつないだ(カルカス)後に、表装材の革を準備。3色の候補から、ご依頼主にワインレッドの山羊革を選んでいただいた。

革漉き作業後、表紙貼りを行い、折り返した革との段差埋め立て(コンブラージュ)をして、見返しを貼り、本体作業を終了。

 

カルカス
             
                                                            内側の埋め立て作業(途中)

背タイトルを金箔押し。中性紙の保護ジャケットを作成した。

作業終了
献辞のページ

新たな表紙を得た聖書をお返しし、ご依頼主からは祖父君の懐かしい文字に再び出会えたと喜んでいただけました。

記録の公開にご快諾いただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします。


修復、タイトル箔押し: 平まどか


2024年12月9日月曜日

半革装法律書の修復


 「改正日本刑法論」という明治期の書籍の修復を行った。表装材の背表紙が背からはずれ、裏表紙とかろうじてつながっている状態だった。新しい革を土台として、元の背表紙を貼り付けることにした。また布装部分も傷みが激しかったので、新たなクロスに替えることにした。

修復前の表装材 背表紙の状態
 

 本体の綴じは比較的しっかりとしていたが、最初の折丁にゆるみがみられた。前見返し、別丁トビラを外し、本体との間で糸綴じし、トビラを貼り戻した。寒冷紗を貼り、クータで背の補強をした。間紙は和紙に取り換えた。

 

折丁のゆるみ

間紙の取り替え
 

傷んだ布をすべて除去し、おもて表紙天の欠損部分を補った後、新しい製本クロスを貼った。表紙内側は見返しきき紙を10ミリほど持ち上げ、クロスの折り返し部分を貼った後、紙を戻した。   

おもて表紙天の欠損部分

欠損部分の補修
 

表紙芯材の内側についていた3本の支持体を外し、芯材外側のノドに貼り付けた。

背表紙の土台となる新しい革を、裏表紙側のノド10ミリくらいに貼り付け持ち上げておいた革を戻し、背表紙までを新たな革に貼り付けた。次におもて表紙側ノドに新たな革の端を貼り付け、裏側と同様に持ち上げておいた革を貼り戻した。

支持体の元の貼り付け位置

おもて表紙ノド つなぎ前

元背表紙を土台革に貼り付け


 表紙内側の作業に戻り、本体の背と背表紙を貼り付けた後、おもて・裏とも本体から続いている和紙を表紙ノドに貼り付け、その上に新たな製本クロスを貼り付けて、見返しきき紙のノド部分を貼り戻した。おもて・裏とも見返し遊び紙を貼り付けた。

革の補強として、HPC(繊維素溶剤)を塗布。

中性紙による保護ジャケット、(本体の重みを支える)土台付保存箱、書見台を作成。

 

本体からの和紙を表紙側に貼り付け前

ノドに新しいクロス貼り付け

作業終了後

 

 研究に必要な、かつ内容的にも重要な本ということで、閲覧頻度の高さに対応できることを念頭に作業を進めました。

記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします。

 

修復:平まどか


2024年10月28日月曜日

『不思議の国のアリス』美しい製本

修復前の状態

著者:LEWIS CARROLL
資料:ALICE’S ADVENTURES IN WONDERLAND.
JOHN TENNIEL挿画 1904年 ロンドン、ニューヨーク刊行

製本仕様:くるみ製本、総革背バンド装、三方金。見返しマーブル紙。表紙革の折り返しにロールによる金箔押し装飾。表紙の裏にイギリス最古の書店HATCHARDSのサイン有り。個人蔵

修復前の状態
小型の美しい青色の総革製本の表表紙が見返しと共に本体から分離していた。全体的に擦り傷が多かった。現存の装飾をそのまま残してほしいとの依頼があった。

作業内容


本体から背表紙革を部分的に剥離して丈夫な白い和紙と革の色に染色した和紙を挿入した。白い和紙を見返し側、染色和紙を表紙側に利用して分離した表表紙を本体に接続した。傷んだ表紙角や背バンドを染色和紙で修理した。見返しノドを薄手の和紙で補強した。表紙ジョイントの外側に染色和紙を貼って補強した。

修復後

 

修復担当:岡本幸治(2024年9月)


2024年9月29日日曜日

たれつき表紙の聖書の修復

たれつき表紙の聖書修復を行った。本体の綴じはしっかりしていたが、表装材の「たれ」になっている箇所(四つの角、天地)に傷みがあり、新しい表装材に替えることになった。

 

修復前の表装材 背の天

修復前の表装材 角

ページ間のクリーニング中に、奥付ページのノドの破れを発見。表紙から支持体の布テープをはがし、表紙と本体を分離させたのち、奥付ページの修理を行った。

 

表紙をはがす

最終頁ノドの修理 

見返しの汚れが目立ったので新しい見返しに替え、保護のためのギャルドブランシュも新たに付け加えることにした。綴じ全体はしっかりしているものの、前と後ろのいくつかの折丁のノドに若干のゆるみがあり、ギャルドとそれら折丁の間を綴じてもゆるみが解消されないと判断、先に背固めをして寒冷紗を貼った上から、前後の折丁とギャルドの間を糸綴じ、再び膠で背固めをした。


ギャルドブランシュの本体への綴じ

 

新たな2本のしおりひもをつけ、花切れ、補強のためのクータ(チューブ状にした紙)を貼って、中身の作業を終えた。

表紙芯材の切り出し、革の切り出し、革漉きを経て、表紙貼りを行った。本体と背表紙を付け、内側の埋め立て(コンブラージュ)まで行い、箔押し作業に移行した。画像6 表紙貼り 内側の埋め立て(コンブラージュ)まで行い、箔押し作業に移行した。

表紙貼り 内側

元の見返し

新たな見返し
 

 箔押し作業から本が戻り、見返しきき紙を糊付けし、作業終了。

新たな背表紙
 
空押し線装飾

背表紙


たれつき表紙への改装は普段あまり機会がなく、事前にスタディを行ったのち、ご依頼の聖書改装に臨みました。貴重な経験となりました。

記録の公開にご快諾をいただきましたことを、ご依頼主に感謝いたします


修復、改装: 平まどか  タイトル押し、空押し装飾: 近藤理恵



2024年7月18日木曜日

背が固すぎると本がこわれやすい



修復前 背表紙が取れそう

資料名:NIPPON.Archiv zur beschreibung von JAPAN
            ERSTER BAND.
著者名:Fr. von Siebold.
出版年、出版地:1897年 ビュルツブルグ ライプチヒ
製本仕様:くるみ製本、半革角革背バンド装。表紙は白色の擬革紙。
270×190×厚さ65mm。2巻本の1冊。個人蔵

修復前の状態

第1巻の背表紙が本体から分離しかけていた。背表紙天側末端のコワフが破損し、部分的に欠損していた。背表紙が背タイトルの下側付近で2つに破損分離していた。

作業内容

見積もりのために送っていただいた画像を見て、本が「針金綴じ」されている可能性に気が付いた。「針金綴じ」が錆びてしまうと、大がかりな修復になる。所蔵者の方に、見積前に実物を観察させていただくようお願いした。思った通りの「針金綴じ」だったが保存状態が良好なので、今回は背表紙の傷みの修理に限定することになった。

 背表紙の破損の原因は芯紙に柔軟性がなく丈夫すぎて突っ張って、本を開くことによる負荷が背表紙のおもて・うら両側のジョイントに集中したことによる、と考えた。


分離した背表紙

表紙の裏側を薄くする

傷んだ材料を取り替える、傷んだ部分を補強する、丈夫すぎる背を薄くして柔軟性を持たせる。本の開きによる負荷を分散して開き機能を構造的にサポートして、本を安全に読むことができる。本の背に和紙を貼り、その上から筒状の紙(クータ)を貼り、背表紙芯紙、薄くした元の背表紙革の順に張り戻した。クータを導入することで、本を開く際の構造的負荷を分散することが出来る。欠損部や破断部などは染色和紙で補強、修復した。背表紙は柔軟性を回復した。


背表紙を戻す


柔軟な背表紙

担当:岡本幸治(2024年7月)