2022年3月29日火曜日

新約聖書の修復と再製本

新約聖書の修復と再製本

昭和二十七年発行の新約聖書の修復と再製本を行った。クロス装の表装材が傷んでおり、ノドの部分は糸がほつれ破損していた。本文はブロック状に分離している箇所、また綴じ糸が切れている箇所がいくつかあり、セロハンテープで補修したページも見られた。本文紙の修復をしたのち、綴じなおして再製本をすることになった。

修復前 表紙    

本文ノド分離 

表紙をはずし、中身の折丁をばらしたのち、セロハンテープの除去、破れた箇所を和紙で修復した。地図が印刷されている見返し紙を前後とも表紙からはずし、最初と最後の折丁に組み立てた後、麻ひもの支持体を用いて本かがりで綴じなおした。背固め、寒冷紗貼り等、背の補強を施した。表装材と同じ黒の山羊革の花ぎれを貼り付けた。

旧セロハンテープ修理 

セロハンテープ除去修理

表装材はご依頼主と相談し、黒の山羊革を使用した。表紙の芯紙を用意、革漉きした革を表紙に貼り付けた。表紙を本体に貼り付け、背に「新約聖書」のタイトルを金箔押しした。中性紙による保護ジャケット、保存箱を作成した。

修復後本文     

修復・箔押し後 

ご依頼主からは、ぼろぼろになっていたものがきれいになったこと、これからも永く読み継いでいきたいとのお礼のお言葉をいただきました。記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。

修復、箔押し:平まどか

2022年2月24日木曜日

大型古版本の修復

大型古版本の修復 - ジョイント・タケティング

西洋古版本を扱う古書店のご店主より、大型本の修復依頼があった。三巻本のうちの一冊で、おもて側の表紙が本体からはずれていた。背革全体を外せるのであれば、支持体となる新たな麻ひもを本体の背に綴じ付け、その麻ひもを表紙の芯材に通して連結するという作業ができるが、今回は背の革が特に傷んでおり、全面的に外すことができないことから、ジョイント・タケティング(Joint Tacketing)という別の方法で修復することにした。

ジョイント・タケティングは、表紙の芯材と本体に小さな穴をあけ、太めの麻綴じ糸を通すことで連結する方法。背の革は一部を持ち上げるものの、全体を外す必要がない。

修復前 表紙

最初に見返し遊び紙を本体からはずし、裏側から補強の和紙を貼った上、傷んだ部分を修理した。本体の耳の部分に補強用の厚手和紙を貼った上で、ピンバイスというドリルを使って、背に向かって穴をあけた。本体の方は背の革を15ミリほど持ち上げておいた。表紙内側の見返しきき紙を15ミリほど持ち上げ、ピンバイスを使って、芯材の厚みの方から斜めに穴をあけた。8か所に穴あけをし、本体と表紙芯材に麻糸を通し連結した。芯材の上で糸を固定したのち、本体耳部分に貼っておいた和紙の余分を芯材側に糊付けし、連結の補強とした。

見返し遊び紙
穴あけ作業
綴じ糸通し1
綴じ糸通し2

外しておいた見返し遊び紙を耳に貼り直し、和紙の足を芯材の上に補強として貼ったのち、持ち上げておいた見返しきき紙を元に戻した。おもて側は、表紙ノドの革も10ミリ程度持ち上げ、背革の持ち上げた部分に亘るように新たな革を貼りつけた後、持ち上げておいた革を元に戻した。裏表紙側も、同様の修復を施した。

表紙の四つの角が共に欠損していたので、新たな革で埋めた。

革は既に傷みが激しかったが、補強としてセルロース溶剤のHPC(ヒドルプロピルセルロース)を塗布した。

中性紙による保護ジャケット、本の開閉時にかかるノドのストレスを軽減する目的で、中性紙段ボールによる書見台を作成した。

修復後(正面)
修復後(横)

依頼主は当初、これだけの大きく重い本がはたしてうまく直るのかどうかと心配されていましたが、作業内容の説明とともに実際の修復結果をご覧いただき、満足していただきました。
記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。

修復・記録:平まどか

2022年1月16日日曜日

『バイリンガル聖書』 の修復

『バイリンガル聖書』 の修復

 1ページの左右に英語と日本語の併記された、厚手の聖書の修復をしました。

処置前・背表紙
処置前・前小口
処置前・おもて見返し
処置前・本文紙のインデックス周辺
ひと連なりの表紙
 

この本は2005年に出版されたもので、そう古いものではありませんでしたが、ずいぶん熱心に読み込まれたらしく、山吹色のクロス装の表紙は、表‐背‐裏が繋がったまま本文から外れていました。本文には、あちこちに鉛筆やマーカーで線が引かれており、いくつもの書き込みもありました。前小口には、章ごとにインデックスラベルが貼られていましたが、それだけ読み込まれたせいか、ほとんどのインデックス周辺で本文紙が破れていました。その破れは、依頼主によってセロハンテープやメンディングテープで貼り留められていました。綴じは糸での機械綴じでしたが、本文の中央部で緩みがあったほかは、しっかりしていました。

 作業に入る前に、本文紙をどこまで補修するかを決めました。直筆の署名のあったおもて見返し遊び紙やタイトルページを含む数ページは、文字を落とさないように気をつけながら粘着テープを剥がして、和紙で補修をする。そして、基本的に、インデックス周辺の粘着テープには触らないことにしました。その粘着テープの貼り方によって用紙全体が引きつれて、しわや折れが生じていても、テープ自体は剥がさない、ということです。

タイトルページのメンディングテープの除去
本文紙の補修

補修の方針を決めた後は、まず、メンディングテープでノドがくっついていたおもて見返し遊び紙とタイトルページを、エタノールで剝がしました。それから、本文背の膠や古い背貼りを、メチルセルロースを塗って取り除いていきました。粘着テープを剝がすことを想定していた他のページについては、印刷の文字のことを考えると、剝がせる部分と剝がせない部分が混在することになりました。ページのカドの折れや破れの補修のほか、本文ブロックの終りの方15枚ほどに、折れまではいっていないページ全体の丸まり癖もあり、それらも補修しました。

そのあと、生麩糊で背固めをして中厚の楮和紙でまとめの背貼りをし、2本の栞紐と花ぎれを貼り戻しました。この本の判型は単行書と変わりませんが、普通の聖書より厚みがあることと、これから先も頻繫に読まれるかもしれないことを考えて、ヒンジの背貼りには、自分で裏打ちをした麻ダックを貼ることにしました。

ヒンジの背貼り
本文と表紙の接合(本文背側)

 外れていた表紙を3つのパートに切り離し、おもて表紙とうら表紙それぞれの表装材と見返し効き紙のノドを、スパチュラーで持ち上げました。本文背に貼ったヒンジの背貼りのハネを、両表紙の見返し効き紙の下に貼り込んで、本文と表紙を接合しました。

 そのあと、本文背に、厚手の和紙で作ったホローチューブを貼りました。これを貼ることによって、背表紙を傷めることなく、本を180度きれいに開くことができるようになります。その後、中性の洋紙で新規の背の芯紙を用意して、中性ボンドで貼りました。

新規の背表紙の表紙貼り
表紙のカドの補強と補修
おもて見返しノドの化粧貼り

 新しい背の表装材は、綿ブロードをアクリル絵の具で着色して、和紙で裏打ちしたものです。それで背の表紙貼りをしました。そのあと、少し擦り切れていた両表紙のカドを、アクリル絵の具で着色した楮和紙で補修しました。

 外して補修しておいたおもて見返し遊び紙を貼り戻し、持ち上げておいた効き紙も全て貼り戻したのち、両見返しのノドに、色を合わせて着色した和紙で化粧貼りをしました。

 最後に、元背の裏側の古い芯紙をこそげ落とし、周囲を切り揃えて、新規の背表紙に貼り戻しました。

処置後・背表紙
処置後・表紙全体

修復 : 安藤喜久代

記録の公開をご承諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。                                          


2021年12月27日月曜日

アルバムの修復

1924年発行のアルバムの修復をした。依頼主ご自身が修復家で、元々のご依頼主から修復依頼があったとのこと。本文写真が印刷された本文紙の修復をされた上で、表紙の布装の傷みを直し、製本し直してほしいというご依頼が本の修復工房にあった。

修復前 表紙
修復前 表装材欠損の様子

表紙で修復すべき箇所は、角を含む表紙布の欠損部分、蝶番の布の浮き、内側の蝶番部分の補強等であった。まず、欠損部分を埋める布と和紙を検討、何種類かの白生地と厚手の和紙をアクリル絵の具で染色してみた。元の色と風合いを合わせるのに苦労したが、最終的に布と和紙を、近い色合いに染めることができた。
欠損箇所の修復後、蝶番部分の布の浮きを直すため、表紙内側から糊入れをした。その上で、裏側の蝶番部分には表紙と同じ色合いに染めた厚手の和紙を補強として貼りこんだ。紐を通すハトメは一部錆がでていたので、すべて新しいものに交換した。

欠損箇所の修復後
蝶番部分の浮きを直す作業

ここまでの時点で、表紙を修復家のご依頼主に一旦戻し、確認していただいた後、本体と共に再びお預りした。本体を糸かがりするだけでは強度が保てないので、本文紙(間紙を含む)の綴じ部分をすべて糊で仮止めした後、平綴じした。本体と表紙に通す紐はオリジナル刺繍糸の色褪せしていない部分で確認し、ベージュの刺繍用糸を14本取りにして結び綴じした。

本体の仮止め作業台
刺繍糸の色確認

中性紙で作った畳紙で包み、同じく中性ボードで保存箱を作成した。

修復後画像

ご依頼主が紙資料修復の専門家であることから、技術的なことがらや修復に対する理念などについて意見交換ができ、有意義な仕事となりました。
記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。

修復: 平まどか

2021年11月2日火曜日

『鶉籠』の修復

114年前に刊行された夏目漱石著『鶉籠』は橋口五葉の装幀。
淡い裏柳色に花紋様と描き文字が空押しされた紙装です。



ご依頼の本の状態は、本文紙はシミが多く、綴じの緩みもあります。
表紙も擦れや汚れなどがあり、背表紙の中央部分に縦割れの亀裂が入っています。
できるだけ元の装幀のままで修復する方針ではじめました。

作業は、本文に湿気臭さがあったので、晴天の日に曝涼を試みてからクリーニングをしました。見返しのノド側をはずして、本文と分離し、背の膠をできるだけとってから、折丁に分解しました。


この本も抜き綴じで、綴じ穴の切れ目が深く、ノド側で本文紙が折れたりしています。
背の掃除をしてから、和紙で各折丁を補修します。


染め典具帖和紙で綴じ穴を埋める


綴じ穴が大きく開いているので、各折の内側の一枚の綴じ穴と、折りクセがついている箇所を和紙で補修をいたしました。

補修を終えた本文に、元の綴じ穴を活かして3本の麻紐を渡し、細い麻糸150番で本かがりで綴じました。背に和紙を貼り、和紙のクータをつけて本文を整えます。


見返しを取り替えず、綴じなかったので、麻紐は寒冷紗につけた

表紙裏の部分を和紙で、天と地の折り返しの部分は内側に和紙と芯を入れて補修。
表紙の角や窪みを染めた和紙で補修し、最後に和紙部分にアクリルメディウムを塗布しています。




角の擦れや窪みを和紙で補修

本体と、表紙を接続して、見返しを貼り戻して仕上げました。
布装のシェルケースを作成、背文字をフロッタージュして作成した原稿を、デジタル加工してタイトルとしました。

『鶉籠』夏目漱石著
明治40年(1907年)/春陽堂
 H227×152×D41mm 
装幀:橋口五葉 


古書を解体すると、先人の手作業の痕跡をたくさん見るのですが、参考になることも、疑問に思うこともあり、綴じ穴の切れ目の深さもその一つでした。

数多く発行された中の一点ですが、この本は依頼主のご希望で修復したことによって、新たな来歴を持つことになりました。修復がこの本の寿命を少しでも延ばすことになっていれば良いなと願っています。

記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝申し上げます。


修復・記録:藤井敬子

2021年10月25日月曜日

『THE HERBALL OR GENERALL Historie of Plantes』 の修復

1636年に出版された植物画の本の修復をしました。

処置前:おもて表紙と背

 この本の現在の装丁はオリジナルのものではなく、再製本されたものでした。明るい茶色のモロッコ革の総革装で、疑似背バンド付きです。一見すると、背表紙に金文字でタイトルが押されているだけですが、表紙うらの三方のチリに金の箔押し模様があったり、背表紙の天地のコワフに金線の箔押しがあったりと、細かいところに手のかかった、美しく仕上げられた本でした。

処置前:おもて見返し 

                         
                                                  処置前:本文紙前小口のインク染み


処置前:地の花ぎれ

修復前の状態はというと、背表紙とうら表紙は本文と接続していましたが、おもて表紙だけノドから切れて、外れていました。表紙全体にインクをこぼしたような染みが飛んでおり、カドや小口には小さな擦り切れやひっかき傷がいくつかありましたが、それらはほとんど気にする必要はありませんでした。

 白い見返しは、再製本時に新たにつけられたもので、表側も裏側もノドが切れていました。遊び紙の前小口は本文より少し長かったので、折れや破れがそのあたりに集中していました。本文紙は、最初と最後の数枚には小口に傷みがあり、補修が必要と思われました。それ以外では、後ろの方の数十ページの前小口に、インクをこぼしたような黒い染みが付いていました。

 綴じは、麻紐5本を支持体とした本綴じで、おもて表紙のノド以外では切断箇所は見当たりませんでした。その他には、えんじ色と黄色と白の糸で編まれた丈の高い花ぎれが、天地ともにきれいに残って付いていました。

タイトルページの補修

 作業は、まず、両見返しの遊び紙と本文紙数枚の小口の補修から始めました。インク染みの部分については、初めはページの片面に和紙を貼って補強することを考えましたが、インクの成分など不明なことも多く、幸い、文字にはかかっていなかったために、このままでも今までのような利用は可能と考えました。それなので、大半のページには手を触れず、明らかに大きめの破れがあったところだけ補修することにしました。

本文背から背表紙をはがす

 次に、背表紙を本文背から剥がして、うら表紙からも切り離しました。本文背があらわになったところで、本文背の膠と古い背貼りを除去しました。

うら表紙の支持体の繋ぎ

 それから、編み花ぎれが外れてしまわないように和紙を貼って固定し、切れていた支持体に新規の麻紐を繋ぎ直しました。 和紙でまとめの背貼りをし、自分で裏打ちをした麻ダックをヒンジの背貼りとして貼りました。

本文と表紙の接合

 この本はとても丁寧に作られていて、表紙うらがノドまできれいにフラットになっていました。作業するために触っているうちに、本文と表紙の接合のためにそこを持ち上げたり、新たに何かを貼り付けたりするのが忍びなくなってしまいました。それで、表紙のノドの厚み部分を割り裂いて、そこへ支持体とヒンジの背貼りのハネを押し込んで、本文と表紙を接合しました。

背革の表紙貼り

 その後、本の開きを良くするためのホローチューブを和紙で作って本文背に貼り、さらに背の芯紙を貼りました。

見返しノドの化粧貼り

 この本の表装材はシボのある革でしたが、同じような色や風合いの革が調達できず、手持ちのシボのない修復用の革で代用することにして、その新しい背革で表装し直しました。それから、元の背表紙の裏側の古い芯紙を削り落として薄く整え、新しい背革の上に貼り戻しました。今回は、天地のコワフ部分にも金線の箔押しがあったので、そこも、元革の裏を薄く整えて新しいコワフの上に貼り戻しました。そして最後に、表紙全体に保革油を薄く延ばして磨きました。

貼り戻されたコワフ

処置後:表紙全体

John Gerarde著  
Adam Islip Joice Horton and Richard Whitakers
London,1636年/350×244×100mm

修復・記録:安藤喜久代


記録の公開をご承諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。