2022年7月15日金曜日

内田嘉吉文庫修復報告2022




工房メンバーが修復に携わった本が展示されます。

特別研究室企画展示
100年後も手に取れる本に〜内田嘉吉文庫修復報告2022〜

2022年7月19日(火)-9月30日(金)
平日1000-20:00 土10:00−18:00、日祝10:00−16:00
2021年度、日比谷図書文化館特別研究室は内田嘉吉文庫を中心に22点の所蔵資料の修復を行いました。
破損が進んでいた19世紀の大型地図書や戦前期の旅行案内、折本の写真集など様々な種類の資料が安心して手に取れるよう修復されました。ステープラー(針金)綴じの本を糸綴じに直す、紙装の本をクロス装に改装するなど、長く使い続けられるよう創意工夫を凝らした修復過程の記録を公開し、修復された資料を展示します。

日比谷図書文化館 4階 特別研究室
東京都千代田区日比谷公園1-4


『太平洋問題』井上準之助編

写真は、藤井が担当したソフトカバーで表紙が外れていた本を
同じタイトルの『太平洋問題』の装丁に合わせて仕上げた本です。
同タイトルの本もジョイント部分が外れかけていたので補修しました。
どうぞ会場でご覧ください。

『太平洋問題』新渡部稲造編


2022年4月26日火曜日

『吾輩ハ猫デアル』の製本と修復

橋口五葉の装幀『吾輩ハ猫デアル・中編』の修復と改装をしました。
ご依頼の古書はどちらも8刷で同じ版ですが、本文も表紙の印刷も仕上がりが少し違いました。



表紙の綺麗な方は背表紙が欠けていて、アンカットを開いた前小口も断裁してあります。
表紙の痛み具合がひどい中編を改装することにして、もう一冊の欠落部分に移植することにしました。

表紙の損傷がある中編

改装する本をクリーニングしながら解体し、折丁に戻します。
折丁の背に残った膠部分を掃除して、背に薄口の楮和紙を貼って補強します。

折丁の背に綴じ穴は5つ、麻紐があったのは2箇所でした。

本文の破れ、折れなどを和紙で補修し、中性紙のギャルドブランシュにマーブル紙の見返しを貼ります。
本文紙の元の穴を活かして、支持体3本を使って細い麻糸で綴じました。

背固め後、麻紐は3本

背固め後、和紙、寒冷紗を貼り、花ぎれを編みました。
元の綴じ穴の位置が、天地から離れていたため、抜き綴じをすると、綴じ糸が中央部分にしかかからない折丁も出てきます。そのため、天地の綴じの補強にもなればと、あえて編み花ぎれにしてみました。

2色の絹糸で2段編み

表紙ボードからタイトル部分を切り出し、背表紙は和紙で裏打ちをしておきます。

くるみ製本の表紙を中性紙のボードで作り、タイトルを埋め込む部分に窪みをつけて麻クロスを貼ります。
本文と表紙を接続し、見返しを貼り、タイトルを付けて仕上げます。


* * * * *


もう一冊の『吾輩ハ猫デアル 中編』は、前小口のアンカット部分を表紙と一緒に切ったためか、斜めに切れて本文に歪みが出ています。

ドライクリーニングをして本文の糸を外して折丁に解体。見返し紙のノド部分を持ち上げて、麻紐の支持体2箇所を外します。


この本には、もう一冊にはあった真ん中の穴はありませんでした。
同じ製本所でも製本者によって違うのだな、と思いながら作業を進めました。

本文の前小口を中心に、破れ、折れなどを染めた楮和紙と典具帖で補修し、折丁を一晩プレスしてから、前小口側を少しカットして整えました。


天地にかがり穴を二箇所追加して開け、2本の麻紐の支持体を使って細い麻糸で抜き綴じ、
背固め、和紙、クータを貼り、本文を整えます。


背タイトルと、別本からのイラスト部分を加えて背表紙を作成し、表紙を再生します。
表紙と本体を接続して、見返し紙を貼りもどし、表紙などを和紙で補い修復しました。



『吾輩ハ猫デアル 中編』夏目漱石著

発行:明治41年2月15日8刷(1908年)/大倉書店、服部書店/印刷:秀英舎
製本仕様:紙装、くるみ表紙、天金、アンカット H224×153×D23mm(写真左)
製本仕様:布装、くるみ製本、天金、アンカット H230×163×D23mm(写真右)

* * * * *

装幀の歴史にも必ず登場する『吾輩ハ猫デアル』。100年あまりを経てきたこの本たちが、さらに未来に残ればと願います。

記録の公開をご快諾いただきました依頼主に感謝申し上げます。


修復、製本:藤井敬子


2022年3月29日火曜日

新約聖書の修復と再製本

新約聖書の修復と再製本

昭和二十七年発行の新約聖書の修復と再製本を行った。クロス装の表装材が傷んでおり、ノドの部分は糸がほつれ破損していた。本文はブロック状に分離している箇所、また綴じ糸が切れている箇所がいくつかあり、セロハンテープで補修したページも見られた。本文紙の修復をしたのち、綴じなおして再製本をすることになった。

修復前 表紙    

本文ノド分離 

表紙をはずし、中身の折丁をばらしたのち、セロハンテープの除去、破れた箇所を和紙で修復した。地図が印刷されている見返し紙を前後とも表紙からはずし、最初と最後の折丁に組み立てた後、麻ひもの支持体を用いて本かがりで綴じなおした。背固め、寒冷紗貼り等、背の補強を施した。表装材と同じ黒の山羊革の花ぎれを貼り付けた。

旧セロハンテープ修理 

セロハンテープ除去修理

表装材はご依頼主と相談し、黒の山羊革を使用した。表紙の芯紙を用意、革漉きした革を表紙に貼り付けた。表紙を本体に貼り付け、背に「新約聖書」のタイトルを金箔押しした。中性紙による保護ジャケット、保存箱を作成した。

修復後本文     

修復・箔押し後 

ご依頼主からは、ぼろぼろになっていたものがきれいになったこと、これからも永く読み継いでいきたいとのお礼のお言葉をいただきました。記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。

修復、箔押し:平まどか

2022年2月24日木曜日

大型古版本の修復

大型古版本の修復 - ジョイント・タケティング

西洋古版本を扱う古書店のご店主より、大型本の修復依頼があった。三巻本のうちの一冊で、おもて側の表紙が本体からはずれていた。背革全体を外せるのであれば、支持体となる新たな麻ひもを本体の背に綴じ付け、その麻ひもを表紙の芯材に通して連結するという作業ができるが、今回は背の革が特に傷んでおり、全面的に外すことができないことから、ジョイント・タケティング(Joint Tacketing)という別の方法で修復することにした。

ジョイント・タケティングは、表紙の芯材と本体に小さな穴をあけ、太めの麻綴じ糸を通すことで連結する方法。背の革は一部を持ち上げるものの、全体を外す必要がない。

修復前 表紙

最初に見返し遊び紙を本体からはずし、裏側から補強の和紙を貼った上、傷んだ部分を修理した。本体の耳の部分に補強用の厚手和紙を貼った上で、ピンバイスというドリルを使って、背に向かって穴をあけた。本体の方は背の革を15ミリほど持ち上げておいた。表紙内側の見返しきき紙を15ミリほど持ち上げ、ピンバイスを使って、芯材の厚みの方から斜めに穴をあけた。8か所に穴あけをし、本体と表紙芯材に麻糸を通し連結した。芯材の上で糸を固定したのち、本体耳部分に貼っておいた和紙の余分を芯材側に糊付けし、連結の補強とした。

見返し遊び紙
穴あけ作業
綴じ糸通し1
綴じ糸通し2

外しておいた見返し遊び紙を耳に貼り直し、和紙の足を芯材の上に補強として貼ったのち、持ち上げておいた見返しきき紙を元に戻した。おもて側は、表紙ノドの革も10ミリ程度持ち上げ、背革の持ち上げた部分に亘るように新たな革を貼りつけた後、持ち上げておいた革を元に戻した。裏表紙側も、同様の修復を施した。

表紙の四つの角が共に欠損していたので、新たな革で埋めた。

革は既に傷みが激しかったが、補強としてセルロース溶剤のHPC(ヒドルプロピルセルロース)を塗布した。

中性紙による保護ジャケット、本の開閉時にかかるノドのストレスを軽減する目的で、中性紙段ボールによる書見台を作成した。

修復後(正面)
修復後(横)

依頼主は当初、これだけの大きく重い本がはたしてうまく直るのかどうかと心配されていましたが、作業内容の説明とともに実際の修復結果をご覧いただき、満足していただきました。
記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。

修復・記録:平まどか

2022年1月16日日曜日

『バイリンガル聖書』 の修復

『バイリンガル聖書』 の修復

 1ページの左右に英語と日本語の併記された、厚手の聖書の修復をしました。

処置前・背表紙
処置前・前小口
処置前・おもて見返し
処置前・本文紙のインデックス周辺
ひと連なりの表紙
 

この本は2005年に出版されたもので、そう古いものではありませんでしたが、ずいぶん熱心に読み込まれたらしく、山吹色のクロス装の表紙は、表‐背‐裏が繋がったまま本文から外れていました。本文には、あちこちに鉛筆やマーカーで線が引かれており、いくつもの書き込みもありました。前小口には、章ごとにインデックスラベルが貼られていましたが、それだけ読み込まれたせいか、ほとんどのインデックス周辺で本文紙が破れていました。その破れは、依頼主によってセロハンテープやメンディングテープで貼り留められていました。綴じは糸での機械綴じでしたが、本文の中央部で緩みがあったほかは、しっかりしていました。

 作業に入る前に、本文紙をどこまで補修するかを決めました。直筆の署名のあったおもて見返し遊び紙やタイトルページを含む数ページは、文字を落とさないように気をつけながら粘着テープを剥がして、和紙で補修をする。そして、基本的に、インデックス周辺の粘着テープには触らないことにしました。その粘着テープの貼り方によって用紙全体が引きつれて、しわや折れが生じていても、テープ自体は剥がさない、ということです。

タイトルページのメンディングテープの除去
本文紙の補修

補修の方針を決めた後は、まず、メンディングテープでノドがくっついていたおもて見返し遊び紙とタイトルページを、エタノールで剝がしました。それから、本文背の膠や古い背貼りを、メチルセルロースを塗って取り除いていきました。粘着テープを剝がすことを想定していた他のページについては、印刷の文字のことを考えると、剝がせる部分と剝がせない部分が混在することになりました。ページのカドの折れや破れの補修のほか、本文ブロックの終りの方15枚ほどに、折れまではいっていないページ全体の丸まり癖もあり、それらも補修しました。

そのあと、生麩糊で背固めをして中厚の楮和紙でまとめの背貼りをし、2本の栞紐と花ぎれを貼り戻しました。この本の判型は単行書と変わりませんが、普通の聖書より厚みがあることと、これから先も頻繫に読まれるかもしれないことを考えて、ヒンジの背貼りには、自分で裏打ちをした麻ダックを貼ることにしました。

ヒンジの背貼り
本文と表紙の接合(本文背側)

 外れていた表紙を3つのパートに切り離し、おもて表紙とうら表紙それぞれの表装材と見返し効き紙のノドを、スパチュラーで持ち上げました。本文背に貼ったヒンジの背貼りのハネを、両表紙の見返し効き紙の下に貼り込んで、本文と表紙を接合しました。

 そのあと、本文背に、厚手の和紙で作ったホローチューブを貼りました。これを貼ることによって、背表紙を傷めることなく、本を180度きれいに開くことができるようになります。その後、中性の洋紙で新規の背の芯紙を用意して、中性ボンドで貼りました。

新規の背表紙の表紙貼り
表紙のカドの補強と補修
おもて見返しノドの化粧貼り

 新しい背の表装材は、綿ブロードをアクリル絵の具で着色して、和紙で裏打ちしたものです。それで背の表紙貼りをしました。そのあと、少し擦り切れていた両表紙のカドを、アクリル絵の具で着色した楮和紙で補修しました。

 外して補修しておいたおもて見返し遊び紙を貼り戻し、持ち上げておいた効き紙も全て貼り戻したのち、両見返しのノドに、色を合わせて着色した和紙で化粧貼りをしました。

 最後に、元背の裏側の古い芯紙をこそげ落とし、周囲を切り揃えて、新規の背表紙に貼り戻しました。

処置後・背表紙
処置後・表紙全体

修復 : 安藤喜久代

記録の公開をご承諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。                                          


2021年12月27日月曜日

アルバムの修復

1924年発行のアルバムの修復をした。依頼主ご自身が修復家で、元々のご依頼主から修復依頼があったとのこと。本文写真が印刷された本文紙の修復をされた上で、表紙の布装の傷みを直し、製本し直してほしいというご依頼が本の修復工房にあった。

修復前 表紙
修復前 表装材欠損の様子

表紙で修復すべき箇所は、角を含む表紙布の欠損部分、蝶番の布の浮き、内側の蝶番部分の補強等であった。まず、欠損部分を埋める布と和紙を検討、何種類かの白生地と厚手の和紙をアクリル絵の具で染色してみた。元の色と風合いを合わせるのに苦労したが、最終的に布と和紙を、近い色合いに染めることができた。
欠損箇所の修復後、蝶番部分の布の浮きを直すため、表紙内側から糊入れをした。その上で、裏側の蝶番部分には表紙と同じ色合いに染めた厚手の和紙を補強として貼りこんだ。紐を通すハトメは一部錆がでていたので、すべて新しいものに交換した。

欠損箇所の修復後
蝶番部分の浮きを直す作業

ここまでの時点で、表紙を修復家のご依頼主に一旦戻し、確認していただいた後、本体と共に再びお預りした。本体を糸かがりするだけでは強度が保てないので、本文紙(間紙を含む)の綴じ部分をすべて糊で仮止めした後、平綴じした。本体と表紙に通す紐はオリジナル刺繍糸の色褪せしていない部分で確認し、ベージュの刺繍用糸を14本取りにして結び綴じした。

本体の仮止め作業台
刺繍糸の色確認

中性紙で作った畳紙で包み、同じく中性ボードで保存箱を作成した。

修復後画像

ご依頼主が紙資料修復の専門家であることから、技術的なことがらや修復に対する理念などについて意見交換ができ、有意義な仕事となりました。
記録の公開をご快諾いただきましたご依頼主に感謝いたします。

修復: 平まどか